父親になって初めて見えた「30 分ミーティング」の真実
今年 2 月末に息子が誕生してから、約 1 か月半が経過した。新たな命を迎え入れた喜びと、それに伴う生活の大変化を日々体験している。そして、父親になって初めて気づいたことがある。それは、私自身も親になる前は全く理解していなかった「見えない負担」の存在だ。
正直に告白すると、私も親になる前は「子育て中だから」という理由でミーティングを断る同僚に対して、内心「そんなに大変なのだろうか」と思っていた。30 分程度のミーティングならそれほど負担にならないのではないか。そう考えていた自分が、今では恥ずかしい。
前回の記事「AI 時代の親密な育児と仕事の共存:新生児との日々から見えた未来の働き方」では、AI との協働開発(Vibe Coding)によって、断片的な時間でも開発を継続できる可能性について書いた。そこでは、育児と仕事の両立における新たな可能性を前向きに綴った。
しかし、その後の実際の育児生活の中で、AI との協働では解決できない新たな課題に直面することになった。それは、リモートワークにおける同期的なコミュニケーション、特に「ちょっとした時間のミーティング」の問題である。
「子育て中だから配慮して、30 分だけのラフなミーティングにしませんか?」
このような気遣いの言葉を受ける機会が増えた。相手の配慮は大変ありがたい。しかし、同時にこの「短時間」「ラフな」ミーティングを断ることに、予想以上の心理的ストレスを感じていることに気づいた。さらに言えば、気遣ってもらった提案を断ることで、「これすらも断るのか」と思われるのではないかという不安や罪悪感が生じるのだ。
この記事では、子育てとリモートワークの両立において、同期的なミーティングが抱える「見えない負担」について掘り下げる。そして、AI 時代の新たな働き方としての「非同期コミュニケーション」の可能性と実践方法を、私自身の体験と考察から探っていきたい。子育てをしている親を擁護するだけでなく、子育て経験のない人や経験を忘れてしまった人にも理解してもらえるよう、また組織や同僚の視点も尊重しながら、具体的な解決策を提案していく。
「30 分だけミーティング」の氷山の一角
「たった 30 分のミーティングなのに、なぜそれほど負担に感じるのか」と疑問に思う方もいるだろう。実際、30 分という時間自体は決して長くない。しかし、これは氷山の一角(超重要)に過ぎず、水面下には見えにくい多くの負担が隠れている。
見えない準備と調整の労力
ミーティングに参加するということは、その時間だけの話ではない。私の場合、以下のような準備と調整が必要になる。
- パートナーとの調整:ミーティング中は子どもの面倒を見てもらう必要があるため、パートナーのスケジュールも考慮した調整が必要になる。
- 環境の整備:子どもの泣き声や生活音が入らないよう、可能な限り静かな環境を確保する必要がある。
- 心理的な準備:「ミーティング中に子どもが泣き出したらどうしよう」という不安への対処。
これらの準備と調整は、ミーティングの前後に追加の時間と労力を必要とする。つまり、実際には「30 分」ではなく、その前後の時間も含めた負担が生じるのだ。
心理的な負担などはそもそも私の状況を知っている人とミーティングを設定するため、私はあまり気にしないのだが、相手の顔も名前も見えていない奥さん側に特に大きな負担となっている想像力が重要である。
断ることのストレス
さらに厄介なのは、このようなミーティングを断ることで感じるストレスだ。私は以下のような心理的葛藤を経験している。
- 気を遣ってくれた相手への申し訳なさ:特に「子育て中だから短く設定している」と配慮してもらった場合、それでも断ることの心理的ハードルは高い。
- 仕事への姿勢を疑われる不安:「育児を言い訳にしているのではないか」「仕事に対する意欲が低いのでは」と思われるのではないかという恐れ。
- 自分自身への葛藤:「プロフェッショナルとして、これくらい対応すべきではないか」という内的な問い。
気軽に誘ってもらえる関係であるからこそ、特にその仕事を断りたいわけではない。ただ、最もパフォーマンスの高い状態で働きたいという思いが強いからこそ、断ることに対するストレスは大きくなる。
これらの感情に対処するための感情労働も、見えない負担の一部だ。感情労働とは、社会学者アーリー・ホックシールドが提唱した概念で、職務上必要とされる感情管理の労力を指す1。この場合、断ることの罪悪感や不安といったネガティブな感情を管理するための労力が該当する。
高いスイッチングコスト
育児と仕事の間の切り替えには、想像以上のエネルギーを要する。心理学では、これを「スイッチング(切り替え)コスト」と呼び、この言葉は有名だろう2。
- 注意の切り替え:子どもの世話から仕事モードへの切り替え、そしてミーティング後に再び育児モードへと戻るという認知的な負担。
- 情報の再整理:ミーティングのために必要な情報を短時間で頭に入れ直すための労力。
- 情緒的な調整:育児の情緒的な関わりから、仕事のプロフェッショナルな態度への切り替え。
この切り替えコストは、同期的なミーティングが断片的に発生するほど、頻繁に支払う必要が生じる。
断ることのストレスと見えない負担:短時間ミーティングの真のコスト
同期的なミーティングが持つ負担の本質をより深く理解するために、心理学や行動科学の観点から考察してみたい。
認知負荷と分断された注意
子育てをしながらのリモートワークでは、常に注意が分断される状態にある。認知心理学の観点では、これは「認知負荷」の増大を意味する3。認知負荷とは、ある課題を遂行するために必要な精神的な努力の量を指す。
育児中は、つねに子どもの状態を気にかけながら仕事をするため、基本的な認知負荷が高い状態にある。そこに同期ミーティングが入ると、さらに以下の負担が加わる。
- 複数の情報ストリームの同時処理:ミーティングの内容を理解し、同時に子どもの状態を監視する。
- 即時応答の必要性:同期ミーティングでは、質問やコメントに対してリアルタイムで応答する必要があり、これが高い集中力と即応性を要求する。
- 予測不能性への対処:子どもが突然泣き出すなどの予測不能な状況に対応しながら、プロフェッショナルな対応を維持するというプレッシャー。
利用可能性ヒューリスティックと認識のズレ
心理学では、「利用可能性ヒューリスティック」という概念がある4。これは、人が判断や評価を行う際に、思い浮かびやすい情報や事例に基づいて判断する傾向を指す。この概念は、子育て中の短時間ミーティングに関する認識のズレを説明するのに役立つ。
子育て経験がない同僚や、子育てから長い時間が経過した同僚は、「30 分のミーティング」の負担を過小評価しがちだ。それは彼らの記憶や経験の中に、関連する困難さの具体例が「利用可能」ではないからである。一方、子育て中の親は、直近の苦労や困難な体験が鮮明に記憶に残っているため、同じ状況をより負担が大きいものとして認識する。
このような認識のズレが、コミュニケーションの摩擦や相互理解の難しさを生み出している。自分が経験していない負担を理解することは簡単ではない。そのため、子育て前の人は知って欲しいし、多分子育て経験のある人でも忘れてしまっている、もしくは日中仕事でオフィスにいたので知らないという状況が生まれているのだ。
境界理論と仕事・家庭の境界線の曖昧化
何度も専門的な言葉が並ぶが「境界理論」という概念は、人が異なる生活領域(仕事と家庭など)の間にどのように境界を設定し管理するかを説明する5。リモートワークは、物理的な仕事場所と家庭の境界を取り払うことで、これらの領域の境界を曖昧にする傾向がある。
子育て中のリモートワークでは、この境界の曖昧さが特に顕著になる。同じ物理的空間で、仕事の責任と育児の責任が常に混在している状態だ。同期ミーティングは、この境界をさらに複雑にする要素となる。
同期ミーティングは、仕事の世界が家庭の領域に直接介入してくる瞬間を作り出す。そのため、単なる「30 分の時間」ではなく、異なる生活領域の境界を管理するための追加的な精神的労力が必要となるのだ。
AI 時代の協働と非同期コミュニケーション:見えてきた突破口
前回の記事「AI 時代の親密な育児と仕事の共存:新生児との日々から見えた未来の働き方」で述べたように、息子の誕生と同時期に始めた AI との協働開発(Vibe Coding)によって、断片的な時間の活用という新たな可能性が見えてきた。この体験は、子育てとリモートワークを両立させる上での重要な示唆を含んでいる。それは「非同期コミュニケーション」を基本とした仕事の再設計だ。
AI との協働から学んだ非同期の価値
AI との協働で最も革新的だった点は、時間的な連続性への依存からの解放だった。従来のプログラミングでは、集中的な「フロー状態」が生産性の鍵とされてきた。しかし、AI との協働開発では、人間の役割が「実装の指示」と「方向性の確認」にシフトすることで、断片的な時間でも意味のある進捗が可能になった。
この経験から、人間同士のコミュニケーションについても同様の考え方が適用できるのではないかと考えるようになった。つまり、リアルタイムの同期的なやり取りではなく、非同期的なコミュニケーションを基本とする働き方への転換だ。
同期と非同期のコミュニケーション:それぞれの特性
同期コミュニケーション(ビデオ会議、電話など)と非同期コミュニケーション(メール、チャット、共有ドキュメントなど)には、それぞれ異なる特性がある。この違いを理解することで、適切なコミュニケーション手段の選択が可能になる。
非同期コミュニケーションの意外な利点
非同期コミュニケーションは、単に「都合の良い時間に対応できる」という以上の価値がある。特に子育てとリモートワークの両立において、以下のような意外な利点がある。
- 熟考の時間:非同期コミュニケーションでは、返信する前に考える時間が確保できる。これにより、より質の高い思考と回答が可能になる。子育ての合間に少しずつ考えをまとめることができるのだ。
- 記録が残る:非同期コミュニケーションは自然に記録として残る。子育て中は記憶力が低下することもあるため6、後から参照できる記録は非常に価値がある。
- 集中力の効率的な活用:限られた集中力を最も必要なタスクに充てることができる。同期ミーティングで消耗する集中力を、本質的な仕事に振り向けられるのだ。
- 予測不能性への対応力:子どもの予測不能なニーズに対応しながらも、仕事の継続性を保つことができる。
ちなみに私は子供が生まれる前から、ここ数年間、非同期での仕事に集中し、その結果ほとんど電話に出たことがない。創業直後から会社の電話は外部サービスで取り次いでいた(余談だが、そのお陰でほとんどが営業電話だと判明した)。同期や非同期は好みがあると思うが、プログラミングの作業を集中して行いたい私には非同期が向いていた。
子育てと仕事の二項対立を超えて:自己責任としての環境整備
ここで重要な価値観を共有したい。今回、私を含めた新生児の親を擁護する意見を書いた。一方でその理解をしてもらう以上は、制約の中で最大限のパフォーマンスを発揮し、会社やチームへ貢献するのが筋だと考えている。
私は「子育てがあってもキャリアのため、会社のために、可能な限りは仕事に取り組んだ方が良い」と考えている。子育てを理由に仕事への貢献を減らすことにはあまり賛成しない。しかし、それは必ずしも従来型の働き方を維持することを意味するわけではない。できることとできないことに整理していく必要がある。
「子育てか仕事か」という誤った二項対立
社会には長らく「子育てか仕事か」という二項対立の図式があった。特に日本の社会では、この二者択一を迫られる状況が続いてきた7。しかし、テクノロジーの進化と働き方の変革により、この二項対立を超える可能性が生まれている。
私の考えは単純だ。子育ての責任を果たしながら、同時に仕事でも高い価値を提供し続けたい。そのためには、従来の「同期的で継続的な時間」を前提とした働き方から脱却し、新たな「非同期・分散型」の働き方へと移行する必要がある。
自己責任としての環境整備
前提として、かなり冷たい言い方になってしまうが、子どもが欲しいのは自己都合であり、会社都合ではない。だからこそ、会社にも自分にも貢献すべく、環境を整える責任は自分自身にあると考えている。
具体的には、以下のような自己責任が重要だ。
- 自分の環境の前提を共有:「タイミングが最重要」で、問題が起きる前に共有することが不可欠だ。問題が発生してからでは受け入れる余裕はない。子育て中の制約を事前に共有することで、周囲の理解を得やすくなる。
- 非同期コミュニケーションを基本とする働き方の確立:同期的なコミュニケーションに依存しない業務フローを自ら構築する。
- 価値提供の方法を再定義する:「時間」ではなく「成果」で自らの価値を測定し、提供する方法を見つける。
私は子育てという苦労したことは人生において糧になると信じている。制約があるからこそ、より工夫し、効率を高め、結果として今までより多くの価値を生み出す姿勢が必要だ。楽な道を選ばなかったからこそ、後から振り返って価値ある経験になるのだ。
ただし、非同期でのコミュニケーションなどは会社や仕事の制約も強い。もちろん会社など外部環境が変わることがベストであるが、これはリモートワークのできる前提である私の絵空事に聞こえる職種の人もいるはずだ。その場合には、一部だけでも役に立つと嬉しい。また、この記事がバタフライエフェクトとして影響を与え、その制約の強いあなたの環境をいつか変えてくれることを願っている。
タイムラインから見る子育てと働き方の変化
私自身の子育てと働き方の変化を時系列で振り返ると、どのような進化があったかが見えてくる。
子育てとリモートワークの両立における変化
AIとの協働開発の実験
断片的な時間でも開発を継続できるために試行錯誤。Vibe Coding 開始。
息子誕生
子育てと仕事の両立における不安と期待。
「30分だけミーティング」問題の顕在化
Vibe Coding の知見に対して知り合いから連絡が続々と来る。同期的コミュニケーションの負担と、断ることの心理的ストレスを実感。
本記事の公開
1 人法人のためチームへの迷惑はかけていないが、知り合いに向けて、子育て中のリモートワーカーとしての視点を共有することに。新生児を抱える多くのパパママの代弁者になりたい。
突破口を開く:子育て中のリモートワークを最適化する実践戦略
理想論だけでは現実は変わらない。そこで、実際に私が試行錯誤の中で効果的だと感じた実践的な戦略を共有したい。これらは、子育てとリモートワークの両立を目指す人々、特にテクノロジー分野で働く親たちに役立つだろう。
事前の期待値設定:問題発生前のコミュニケーション
最も重要なのは、問題が起きる前に期待値を設定することだ。タイミングは極めて重要で、問題が発生してからでは受け入れられない。
私が実践している方法は以下の通りだ。
- 自分の状況と制約を率直に共有:子育て中であることを隠すのではなく、それによる具体的な制約(例えば、「午後 3 時から 5 時は保育園の送迎で対応が難しい」など)を伝える。
- 代替案を積極的に提案:単に「できない」と言うのではなく、「こういう方法なら対応可能」という建設的な提案をする。例えば、「同期ミーティングの代わりに、詳細な議事録と非同期のフィードバックでも良いか」など。
- 自分のコミットメントを明確に:制約を伝える際に、同時に「それでも高い価値を提供する」という強いコミットメントを示す。私は「子育てしながらでも、通常以上の価値を提供したい」という思いを率直に伝えている。
ちなみに、このブログも代替案として大いに活用している。相談があった事柄などを覚えておき、ミーティングやイベント登壇の代わりにブログ記事としてまとめることで、私の考えを伝える手段としている。これにより、私の考えを知りたい人々に対して、非同期で情報を提供できる。
大事なことであるため何度でもいうが、これらを問題が起きる前に行うことが全てである。問題が起きてから自分の状況を説明しても全く有効ではない。
非同期コミュニケーションを実現するツールと方法
非同期コミュニケーションを基本とした働き方を実現するには、適切なツールと方法の選択が重要だ。以下は、私が実際に効果を感じている方法だ。
- 共有ドキュメントの積極的活用:ミーティングの代わりに、共有ドキュメントで情報を整理し、コメント機能でフィードバックを行う。これにより、各自が都合の良い時間に貢献できる。
- チャットのスレッド化と期待値の明確化:チャットを使う際は、トピックごとにスレッド化し、「緊急度」と「期待する返信のタイミング」を明示する。例えば、「明日までに意見が欲しい」など。
- 非同期プレゼンテーション:重要な情報共有は、録画したショートビデオや詳細なドキュメントとして共有し、質問やフィードバックは非同期で受け付ける。
- AI ツールの活用:会議の要約、議事録作成、フォローアップタスクの整理などに AI ツールを活用し、非同期コミュニケーションの質を高める。
これらのツールや方法論は本来であればチームや会社の理解を得られないと進まないものが多い。ただ幸いにも、コロナ禍でリモートワークが普及した際に DX 推進の一環として多くの企業で導入されたはずだ。
相互理解と責任の共有:未来の働き方への展望
ここまで述べてきた課題と解決策を踏まえ、最後に私が考える未来の働き方について展望を述べたい。子育てとキャリアを両立させる働き方は、個人の努力だけでなく、組織と社会の変革も必要とする。
働く親が高い貢献を続けるための条件
私は、「子育てがあっても全力で仕事をした方が良い」と考えているが、それは特定の条件下でこそ可能になる。
- 非同期コミュニケーションが評価される文化:「すぐに反応する」ことよりも「質の高い貢献をする」ことが評価される組織文化が必要だ。
- 成果ベースの評価:「どれだけの時間働いたか」ではなく「どれだけの価値を生み出したか」で評価される仕組みが重要だ。
- 柔軟性と自律性:「いつ・どこで・どのように働くか」について、一定の自律性が認められる環境。
- 相互理解と配慮:子育ての負担について理解があり、同時に子育てをしていない人への配慮もある相互尊重の文化。
ただし、「自由には責任が伴う」ことを忘れてはならない。自由度の高い働き方を求めるのであれば、その自由度に見合う成果を確実に残す必要がある。その責任を負う覚悟がないのであれば、従来の働き方を受け入れるしかない。
あくまで働く親を甘やかしたいわけではない。自分たちの制約の中で家庭も仕事も両立したいのであれば、最大限の努力をするのが当然である。そして、その努力がいつか報われることを同じ新生児の親として願う。
AI との協働がもたらす「人間らしい時間」の確保
AI との協働開発は、単に業務効率を高めるだけでなく、より本質的な変革をもたらす可能性がある。それは「人間らしい時間」の確保だ。
子育ては本質的に「人間らしい時間」を要求する活動だ。子どもとの関わりは、機械的に効率化できるものではなく、質的な時間の投資を必要とする。AI との協働により、私たちは以下のような変化を期待できる。
- 定型的作業の自動化:AI が定型的な作業を担うことで、人間は創造性や判断力を要する業務に集中できる。
- 情報の整理と要約:大量の情報を AI が整理・要約することで、断片的な時間でも本質的な判断が可能になる。
- コミュニケーションの支援:AI がコミュニケーションの準備や後処理を支援することで、人間同士の対話の質が向上する。
- 仕事と生活の新たな統合:AI の支援により、「仕事か生活か」という二項対立ではなく、両者が有機的に統合された新たなライフスタイルが可能になる。
次世代の働き方:子育てを通して見える未来
子育てとリモートワークの両立における課題は、実は働き方全体の未来を映し出す鏡だ。「30 分だけミーティング」問題は、同期コミュニケーションへの過度の依存という、より広範な働き方の課題を顕在化させている。
私は息子の成長を見守りながら、次のような働き方の未来を構想している。
- 時間と場所から解放された協働:物理的な同期や場所に依存しない、より自由で柔軟な協働形態。ただし、人間らしくチームで働くことも時には選択したい。
- 多様なライフステージに対応するワークスタイル:子育て期、キャリア発展期、ケア提供期など、人生の様々なステージに適応できる柔軟な働き方。
- テクノロジーと人間性の調和:AI などのテクノロジーが人間の創造性や関係性を支援し、より人間らしい働き方を可能にする社会。
子育ては確かに挑戦だが、それは同時に私たちの働き方や組織のあり方を再考する貴重な機会でもある。「30 分だけミーティング」を断ることのストレスから始まった考察が、より広範な働き方の変革へとつながっていくことを願っている。
個人の体験から社会への示唆へ
「30 分だけミーティング」を断れないという個人的な葛藤から始まったこの考察は、実は単なる個人的な悩みを超える意味を持っている。それは、働き方と生き方の本質的な再構築に関わる問題だ。
AI との協働経験から見えてきた非同期コミュニケーションの可能性、子育てという経験から浮かび上がった「見えない負担」の構造、そして「育児か仕事か」という二項対立を超える新たな統合の形。これらは個人的な体験でありながら、社会全体の働き方の変革を示唆するものだ。
「子育てがあってもキャリアのため、会社のために、全力で仕事をした方が良い」という私の信念は、決して古い働き方への回帰を意味するのではない。むしろ、それは新たな働き方を通してこそ実現可能なビジョンなのだ。
私自身、まだ子育ての始まりに立ったばかりで、これからも多くの挑戦や発見があるだろう。また、私の子どもが大きな病気をしていないという現在の状況も認識している。状況が変われば、考え方も変わる可能性は大いにある。
それでも、自分の置かれている環境を整理し、制約を前提として共有し、非同期コミュニケーションなどの新たな働き方を実践することで、育児も仕事も妥協しない生き方を追求していきたい。そして、その過程で得たインサイトが、同じような課題に直面する人々や、働き方の変革を模索する組織の一助となれば幸いだ。
参考文献
Footnotes
-
ホックシールド, A. R.「管理される心:感情が商品になるとき」世界思想社、2000 年。職場における感情管理を「感情労働」として概念化した先駆的研究です。 ↩
-
American Psychological Association. "Multitasking: Switching costs." https://www.apa.org/topics/research/multitasking (2006 年 10 月 20 日アクセス)。タスク切り替えに伴う認知的コストについての研究を概説しています。 ↩
-
湯川卓海「楽に仕事するために認知負荷の高さをコントロールする3つのポイント」note、2023 年。認知負荷の概念とそのコントロール方法について解説しています。 ↩
-
Tversky, A., & Kahneman, D. "Availability: A heuristic for judging frequency and probability." Cognitive Psychology, 5(2), 207-232 (1973). 利用可能性ヒューリスティックに関する古典的研究です。 ↩
-
Kreiner, G. E., Hollensbe, E. C., & Sheep, M. L. "Balancing borders and bridges: Negotiating the work-home interface via boundary work tactics." Academy of Management Journal, 52(4), 704-730 (2009). 境界理論と仕事・家庭の境界管理について研究しています。 ↩
-
Crawley, R., Wilkie, R. M., Grant, S., Fearon, H., & Spicer, L. "How Parenthood Changes Brain Function: A Review of the Evidence for Neuroplasticity from Pregnancy to Late Parenthood." Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 135, 104598 (2022). 親になることによる脳機能の変化についての最新レビューです。 ↩
-
内閣府男女共同参画局「子育てや介護等と両立して働き続けられる職場環境の整備」。日本における仕事と育児の両立に関する政策を概説しています。 ↩