希望と不安が交錯する新たな始まり
2 月 28 日、私の人生に大きな転機が訪れた。待望の息子が誕生したのだ。喜びに包まれる一方で、起業家としての責任も重く肩にのしかかる。「子育てに時間を取られれば、キャリアは多少我慢すべきか」という思いが頭をよぎった。
多くの親たちが直面するこのジレンマは、技術者や起業家にとって特に切実だ。プロダクトの進化は待ってはくれないし、市場の変化も猶予はない。しかし、子供の成長の瞬間は二度と戻ってこない。この相反する 2 つの要請の間で、私は新たな可能性を見出すことになる。
そのきっかけは偶然にも同時期に本格的に取り組み始めた「Vibe Coding」という開発手法だった。AI と人間が協働してコーディングするこのアプローチが、予想外の形で育児と仕事の両立に光を投げかけたのだ。
なぜ従来は「両立が難しい」と思われてきた育児と仕事が、AI の登場で変わりうるのか。この 1 ヶ月間、新米パパとして過ごしながら体験した新たな働き方の可能性について、実体験をもとに考察していきたい。
前提を疑う勇気 不可能を可能に変える思考
「育児は手がかかるから、仕事の生産性は落ちて当然」。この前提は、多くの人が無意識に受け入れてきた「常識」ではないだろうか。しかし、テクノロジーの進化はしばしばこうした「常識」を覆してきた。
私自身、息子が生まれる前は「子育ては奥さんのサポートがすべての中で最優先になるからこそ、自分のキャリアは多少我慢すべきか」と考えていた。これは多くの人が抱く素直な思いだろう。しかし、実際に体験してみると、AI 協働というアプローチが思わぬ形でこの方程式を書き換えてくれた。
このブログが目指すもの 体験から見えた希望の共有
この記事は、テクノロジーの最前線にいる人々に向けた単なる技術解説ではない。同時に、育児のハウツーでもない。これは、AI という新たなパートナーの登場によって見えてきた、仕事と育児の両立に関する価値観の転換についての考察だ。
私が 1 ヶ月間の実体験から得た驚きと発見が、同じ悩みを抱える人々、特に技術者や起業家として活躍しながら親としての役割も大切にしたいと願う人々に新たな視点を提供できれば幸いだ。
子育てで最初にしたこと 生存のための優先順位づけ
息子の誕生に備え、実際に子育てを始めるにあたり、最初に取り組んだのは徹底的な優先順位づけでした。これは私がビジネスの世界で培った考え方を家庭に適用したものです。
やることとやらないことに分けるだけでなく、やることも「nice to have」(あれば良いこと)と「must have」(絶対に必要なこと)に明確に分類した。そして「nice to have」は最初に徹底的に手放すことにした。
例えば、食事の準備。私たちは当初、健康的な食事のために自炊にこだわるつもりだった。しかし現実的にそれは難しい。そこでミールキット「nosh」やパルシステムを導入し、料理を 1 から作ることをやめた。
奥さんは最初、抵抗を示した。「赤ちゃんのためにも健康的な食事を自分たちで作るべき」という考えがあったからです。しかし実際に育児が始まると、その余裕がないことを実感し、今では時間を節約できる点をありがたく思っています。
これはプロダクト開発でよく言われる「MVP」(Minimum Viable Product、実用最小限の製品)の考え方と同じだ。最初は必要最低限のことだけに集中し、慣れてきたら徐々に拡張していく。最初から多くを詰め込みすぎて挫折してしまっては本末転倒である。
イノベーションの導入は家庭でも難しい
興味深いことに、企業内でのイノベーション導入と家庭での新しい試みの導入には、驚くほど類似点があります。
「nosh」のような新しいサービスの導入は簡単ではなかった。奥さんの抵抗を感じたので、まずは私が勝手に購入して使い始めた。使ってみてもらうことで「これでも良いかも」と徐々に変化していった。
これは企業内でのイノベーション導入と全く同じプロセスだ。人は知らないものに対して本能的に抵抗を示す。しかし実際に体験してみると、その価値を理解し始める。口で説明するよりも体験してもらう方が効果的なのだ。
非同期コミュニケーションの徹底
もう 1 つの重要な戦略が、仕事上のコミュニケーションを可能な限り非同期に切り替えたことだ。
赤ちゃんはいつ泣き出すか予測できない。そのような状況で Zoom ミーティングに参加するのは、単に時間的に難しいだけでなく、精神的にも大きなプレッシャーになる。
そこで私は、「軽い打ち合わせだから大丈夫」という誘いにも、丁寧に事情を説明して断り、メールやチャットでの非同期コミュニケーションに切り替えてもらった。
「少しならできる」という考えは、実は大きな罠だ。そのような妥協を積み重ねると、結果的に大きなストレスとなり、パフォーマンスを下げることになる。最初から自分にストレスをなるべくかけない環境を整え、その制約の中でしっかりと成果を出せる方法を模索する。これが私の基本戦略となった。
新生児との暮らしと Vibe Coding の意外な親和性
子育てとコーディングという、一見すると水と油のような活動が、AI の介在によって驚くほど相性の良いものになりうることが、私にとって最大の発見だった。
「子育ては奥さんのサポートがすべての中で最優先になるからこそ、自分のキャリアは多少我慢すべきか」
育児と向き合う前のこの思いは、1 ヶ月の体験を経て大きく変わった。
断続的な時間を有効活用できる非同期開発
新生児との生活で最も顕著な変化は、まとまった時間の喪失だ。授乳、おむつ替え、あやす時間。これらは定期的に、しかも予測不能なタイミングで訪れる。従来のプログラミングでは、こうした「分断された時間」は致命的だった。
プログラミングには集中力と「フロー状態」が欠かせない。一度中断すると、再び思考の流れを取り戻すまでに大きなコストがかかる。これが、多くのプログラマーが「会議の多い日はコードが書けない」と嘆く理由だ。
しかし、Vibe Coding では状況が一変する。AI との協働では、人間は「実装の指示」と「方向性の確認」を担当し、実際のコーディングは AI が行う。この役割分担が、断続的な時間の活用を可能にした。
例えば、授乳の時間。片手でスマートフォンを操作しながら、AI に次の実装ステップの指示を出します。沐浴を終えて作業に戻ると、AI は指示通りにコードを書き進め、次の判断を待っています。この「待ってくれる」という特性が、育児の合間の開発を現実のものにしました。
物理的存在と仮想的協働の新たな関係性
育児においては、物理的な存在と触れ合いが不可欠だ。一方で、AI との協働は完全に仮想空間で行われる。この対照的な 2 つの活動が共存できるのは、実は互いを邪魔せず、むしろ補完するからではないだろうか。
私は息子を抱きながら AI に指示を出し、おむつを替えながら次の開発ステップを構想する。物理世界と仮想世界を同時に生きる新たな働き方が、ここに生まれていた。
従来のプログラミングでは考えられなかったこの融合は、AI が「待つことのストレスを感じない」という特性によって可能になっている。人間の同僚なら、数時間の沈黙は不安や焦りを生むだろうが、AI はそうした心理的負担を相手に与えることなく待機できる。
場所を問わない協働の実現
育児は「家」という物理的空間に強く紐づいている。特に新生児期は外出も制限される。従来の働き方では、これは決定的な制約だった。
しかし、AI との協働においては、場所はほとんど問題にならない。寝室でも、リビングでも、キッチンでも、家のどこであっても、スマートフォン一台あれば開発は継続できる。
この「場所からの解放」は、育児をしながら働く親にとって計り知れない恩恵だ。病院の待合室や、公園のベンチ、車の中でも、開発の指示と確認は可能なのだから。
時間の質が変わる 育児の合間の開発効率
時間の使い方が根本から変わった。これまで「量」で捉えていた時間を、「質」の観点から見直す契機となったのだ。
特に印象的だったのは、「小さな時間の断片」が持つ潜在的な価値だ。以前なら「10 分や 15 分では何もできない」と思っていた時間が、AI との協働では驚くほど生産的になる。
ミルク時間:片手操作とメンタル・プラニング
深夜、息子にミルクを与えながら、もう片方の手でスマートフォンを操作する。睡魔と闘いながらも、AI に次のタスクの指示を出す。これは従来のプログラミングでは考えられなかった光景だ。
従来型の開発では、コードを書くためには両手とフルスクリーンの集中が必要だった。しかし、AI との協働では「何をするか」という方向性の判断が主な役割となる。これなら、片手でのテキスト入力でも十分に機能する。
さらに興味深いのは、育児の「待ち時間」がメンタル・プラニングの貴重な機会になることだ。ミルクを飲む 15 分間、次の開発ステップや設計判断を整理できる。AI に「待ってもらう」間に、次の指示を練り上げられるのだ。
沐浴の時間:AI による実装と人間の思考
「沐浴をしている間も、ずっとコードを書いていてくれる」。これは私が体験した最も印象的な変化の 1 つだ。
息子の沐浴は私が担当することが多い。15〜20 分程度のこの時間は、完全にコンピュータから離れることになる。従来なら、この「中断」は開発フローを破壊する要因だった。
しかし、AI との協働では全く異なる。沐浴の前に次のステップの指示を出しておけば、戻ってきたときには実装が進んでいる。むしろ、物理的な作業をしている間に思考が整理され、帰還後により良い判断ができることも多い。
この「デジタル・デタッチメント」(デジタルからの一時的な離脱)が、思考の質を高めることは認知科学的にも説明できる。私たちの脳は、問題から一時的に離れることで、無意識レベルでの処理を続け、しばしば「ひらめき」を生み出すのだ。
睡眠時間の確保がもたらす思考の質の向上
育児に従事する親の最大の課題の 1 つは睡眠不足だ。断続的な夜間の授乳やあやしで、まとまった睡眠が取りにくい。これは通常、仕事のパフォーマンスを著しく低下させる要因となる。
従来の開発作業では、睡眠不足は致命的だった。集中力の低下、バグの増加、創造性の枯渇—これらは睡眠不足のプログラマーによく見られる症状だ。
しかし、AI との協働ではこの影響が軽減される。なぜなら、人間の役割が「細部の実装」から「方向性の決定」にシフトするからだ。方向性の判断は集中的な短時間で行え、その後の実装は AI に委ねられる。
さらに興味深いのは、AI の 24 時間稼働能力と人間の睡眠サイクルを組み合わせることで生まれる相乗効果だ。就寝前に次のタスクの指示を出しておけば、朝起きたときには結果が待っている。これにより、睡眠時間を確保しながらも開発を進められる新たなリズムが生まれた。
成果から見えた新たな働き方の可能性
1 ヶ月を経て振り返ると、驚くべき事実に気づく。育児と両立しながらも、これまでの働き方かそれ以上の成果をこの 1 ヶ月では出すことができたのだ。これは単なる偶然ではなく、AI との協働がもたらした根本的な変化によるものだと確信している。
「時間あたり成果」から「期間あたり成果」への転換
従来の働き方では、「1 時間あたりどれだけのコードが書けるか」という生産性の評価が一般的だった。しかし、AI 協働での開発は、この前提を覆す。
重要なのは、「連続して何時間作業できるか」ではなく、「断続的であっても方向性を示せるか」という点に変わった。この変化は、育児中の親にとって革命的だ。なぜなら、子育てで最も失われるのは「まとまった時間」だからだ。
私が実感したのは、「1 日の終わりに何が完成したか」という期間あたりの成果は、むしろ向上したという点です。たとえ 1 日の作業時間が断片的で合計すれば減少していたとしても、最終的な成果物の質と量は維持、あるいは向上していました。
これは単に AI が「速く」コードを書けるという表面的な理由だけではない。むしろ、断片的な時間での思考が、「熟考」の機会を増やし、方向性の判断をより洗練させた可能性が高い。
時間的制約がもたらす意思決定の質の向上
興味深いことに、時間的制約が意思決定の質を高める効果も観察された。育児による時間的制約は、優先順位の明確化を強制する。「この機能は本当に必要か?」「もっとシンプルな解決策はないか?」といった問いが自然と生まれるのだ。
従来なら「時間があるから」と実装していたかもしれない周辺機能よりも、本質的な価値に焦点を当てた開発ができるようになった。これは結果として、ユーザーにとってもより価値のある成果につながる可能性がある。
育児の体験が技術的直感を豊かにする意外な効果
最も意外だったのは、育児の経験自体が技術的な思考や創造性にポジティブな影響を与えたことだ。
新しい生命との触れ合いは、人間の根源的な喜びや不安、期待といった感情を呼び覚ます。こうした感情の豊かさが、プロダクト開発における「ユーザー共感」を深める効果をもたらした。
「このインターフェースは初めての人にも直感的に使えるか?」「この機能は本当に人々の役に立つか?」。こうした問いへの感度が高まったのだ。
これは育児という経験から得られた予期せぬ副産物だが、技術者としての成長にとって極めて価値があると感じている。
未来へ向けて:AI 協働がもたらす育児と仕事の調和
この 1 ヶ月の体験は、個人的な発見に留まらない。AI 協働がもたらす働き方の変革は、社会全体の育児と仕事の関係性を根本から変える可能性を秘めていると考えている。
「監視する人」から「方向性を示す人」へ 仕事の本質的転換
AI との協働で最も根本的に変わるのは、人間の役割だ。従来型の開発では、プログラマーは「コードを書く人」だった。その後、自動化の進展により「コードを監視する人」へと変化してきた。
しかし、AI 協働では「方向性を示す人」へと役割が進化する。これは単なる作業内容の変化ではなく、仕事の本質的な転換を意味する。
この新たな役割は、育児との両立により適している。なぜなら、「方向性を示す」という行為は、短時間でも高い質で行うことが可能だからだ。また、心理的・感情的な充足を得やすいという特徴もある。
育児も「方向性を示す」行為の 1 つだと考えれば、この 2 つの活動には深い共通点があることに気づく。子供の成長を導く親の役割と、AI の開発を導く人間の役割には、驚くほどの類似性がある。
社会システムの進化 育児と仕事の新たな共存モデル
個人的な体験を超えて考えると、AI 協働は社会全体の「育児と仕事」の関係性を再構築する可能性を持っている。
現代社会のワークライフバランスの課題の多くは、「時間とロケーションの固定性」に起因している。オフィスに物理的に存在し、連続した時間で働くという前提が、育児との両立を困難にしてきた。
AI 協働がこの前提を覆すことで、より柔軟な働き方が実現する。断片的な時間でも高い生産性を維持できるならば、従来型の「9 時から 5 時まで」の働き方から解放される可能性がある。
これは単に個人の働き方の問題ではなく、社会制度や企業文化の変革を促す可能性がある。例えば、「在宅勤務」の概念も、AI 協働時代には「部分的・断続的関与」という新たな形に進化するかもしれない。
人間らしさを取り戻す技術 親密な時間を守る AI の役割
最後に、最も重要な洞察を共有したい。AI との協働がもたらす最大の価値は、「人間らしい時間」を取り戻す可能性だ。
皮肉なことに、テクノロジーの進化は、私たちに最も人間的な体験を犠牲にさせてきた面があります。例えば、子供との触れ合い、家族との食事、自己成長のための時間などです。しかし、AI との適切な協働は、この傾向を逆転させる可能性を秘めているのです。
私の 1 ヶ月の体験から言えるのは、AI は「仕事のために育児の時間を削る」のではなく、「育児の質を保ちながら仕事も進める」という新たな選択肢を提供してくれるということだ。
子供の成長に立ち会いながら、プロフェッショナルとしての責任も果たせる—こうした調和は、従来のテクノロジーでは難しかった。しかし、AI という新たなパートナーの登場で、この理想が現実のものとなりつつある。
結び 個人の体験から社会の変革へ
この 1 ヶ月間、新生児の父親として、そして技術者として過ごした日々から、私は新たな可能性の片鱗を垣間見た。それは単に「便利になった」という表面的な変化ではなく、仕事と育児の関係性を根本から問い直す深い変化だ。
AI との協働が示唆するのは、「二者択一」ではなく「両方を高い質で」という新たな選択肢の存在だ。私たちは、テクノロジーと人間性の対立ではなく、調和を目指すべきなのかもしれない。
子供の笑顔に心を奪われながらも、創造的な仕事にやりがいを感じられる社会。そんな未来が、AI という予想外のパートナーによって、より近づいているのではないだろうか。
この記事が、同じような状況にある親たち、特に技術分野で活躍する人々に、新たな希望や視点を提供できれば幸いだ。