なぜ選択は難しいのか
「やりたいことが見つからない」 「この選択で本当に良いのだろうか」 「自分の強みを活かせるキャリアとは」
このような問いかけは、人生の岐路に立つ多くの人が抱える普遍的な悩みだ。とりわけ、選択肢が無限に広がる現代において、自分に合った道を見つけることはますます難しくなっている。
私は京都大学で機械学習を研究し、その後起業して経営者となった。この過程で、研究対象だった「ベイズ最適化」というアルゴリズムが、人生の選択にも応用できることに気づいた。誰もが抱える「選択の科学」とも言えるこの概念は、私自身のキャリア選択を大きく助けてくれた。
この記事では、機械学習の「探索と活用」という概念をキャリア設計に応用し、自分の最適解を効率的に見つけるための実践的なアプローチを紹介する。数学的な難解さではなく、誰もが活用できる思考法に焦点を当てて解説していく。
現代社会において、人生やキャリアの選択が特に難しくなっている理由は主に 3 つある。
第一に、選択肢の多様化だ。かつては「地元の大企業に就職して定年まで働く」というシンプルなキャリアパスが一般的だった。しかし今や、フリーランス、起業家、複業、リモートワーク、海外就労など、働き方は多様化している。業種も細分化され、10 年前には存在しなかった職業も次々と生まれている。選択肢が増えることは自由度の拡大であると同時に、決断の難しさの増大でもある。
第二に、変化の加速という問題がある。私が機械学習を研究していた 10 年前と現在では、必要なスキルセットや市場価値が大きく変わった。特に AI 技術の進化は予測を超えるスピードで展開し、ChatGPT のような生成 AI の登場は、多くの職業の在り方を根本から変えつつある。「将来性のある選択」をすることは、まるで動く標的を追いかけるようなものになっている。
第三に、最も根本的な問題として、自己理解の難しさがある。「何が好きか分からない」「何が得意なのか分からない」という悩みは、誰もが直面する普遍的な課題だ。これは特に若い世代にとって深刻で、十分な経験がない段階で重要な選択を迫られることが多い。
自己理解には他者からのフィードバックが不可欠だと私は考えている。若い人から「自分の得意なことが分からない」という相談を受けることがあるが、私はいつもこう伝えている。「自分の内側だけを見つめても、得意なことは見えてこない。様々な経験を通じて外部からのフィードバックを得ることで、初めて自分の強みが浮かび上がる」
これらの理由から、多くの人はキャリア選択において大きく 3 つの罠に陥りやすい。
- 行動の停滞: 完璧な選択を求めるあまり、何も選べなくなる
- 場当たり的選択: 流行や周囲の影響だけで進路を決める
- 他者依存の選択: 親や上司、先輩の言うままに進路を決める
こうした状況で、どうすれば自分にとっての最適解を効率よく見つけられるのか。ここで機械学習の最適化理論が示唆に富む視点を提供してくれる。
選択の科学:ベイズ最適化の考え方
ベイズ最適化とは何か。専門的な定義は複雑だが、本質的には「最小限の試行で最適解を見つける方法」だ。京都大学での私の研究テーマの 1 つがこのベイズ最適化で、機械学習モデルのハイパーパラメータ(設定値)の自動調整に使用されることが多い。余談となるが、私はベイズ最適化を製造業の最適な実験条件の最適化に使っていた。
なぜこの概念が人生の選択に関係するのか。それは、キャリア選択と機械学習の最適化問題には驚くほど多くの共通点があるからだ。
- 試行にコストがかかる: 機械学習では計算リソースが限られ、キャリアでは時間や機会のコストが高い
- 関数の形が未知: 機械学習では最適化したい関数の形が分からず、人生では選択の結果を事前に正確に予測できない
- ノイズの存在: 機械学習では測定にノイズが含まれ、人生では運や外部環境の影響がある
ベイズ最適化の核心にあるのが、「探索」と「活用」のバランスという考え方だ。機械学習では「Exploration(探索)」と「Exploitation(活用)」と呼ばれるこの概念を、日常的な例で説明しよう。
探索と活用:レストラン選びの例
あなたが新しい街に引っ越してきたとする。美味しいレストランを見つけたいが、時間とお金は限られている。どうすれば効率よく「自分にとっての最高のレストラン」を見つけられるだろうか。
探索戦略:毎回異なるレストランを試す。多様な料理や価格帯を経験できるが、ハズレに当たるリスクもある。
活用戦略:一度気に入ったレストランに繰り返し通う。満足度は安定するが、もっと素晴らしいレストランを見逃す可能性がある。
賢明な方法は、この両方をバランスよく行うことだ。最初は様々なレストランを試し(探索)、ある程度良いものが見つかったら、しばらくはそこを中心に通いながら(活用)、時々新しい場所も試してみる(探索の継続)。
キャリア選択におけるベイズ最適化
キャリア選択も全く同じ原理で考えることができる。
- 探索:様々な仕事、プロジェクト、働き方を試す
- 活用:有望と思われる道をさらに深めていく
ベイズ最適化の素晴らしさは、過去の試行から学んで次の一手を決める点にある。レストラン探しで言えば、「イタリアンは自分に合っていた」という経験から、次は別のイタリアンを試してみるといった具合だ。
キャリアでも同様に、「顧客と直接関わる仕事が自分に合っていた」という発見があれば、次はその要素を含む別の仕事を探索するといった形で選択の精度を高めていく。
人生の最適解を見つけるという問題は、まさにベイズ最適化が得意とする「試行コストが高く、関数の形が明示的に分からない」最適化問題だ。一度のキャリア選択には大きなコストがかかり、どの選択がどのような結果をもたらすかは事前に正確に予測できない。
この原理を応用すると、キャリア設計のプロセスは次のように再構成できる。
- 初期段階では 探索を重視 し、様々な可能性を試してみる
- 何らかの手応えを感じたら、その領域で 活用を行い、専門性を深める
- 状況に応じて 探索と活用のバランスを調整 しながら最適解に近づいていく
「進路選択をしたいけど自分のやりたいことが定まっていない」という相談を受けることがよくある。そんな時は「探索のサンプル数を増やすこと」と「好きなことを見つけるより向いていないことに × をつけていく」アプローチを提案している。これはまさにベイズ最適化の考え方を実践的に応用したものだ。
では具体的に、キャリアにおける「探索」と「活用」をどのように実践すればよいのだろうか。
キャリア「探索」のアプローチ
キャリアの探索フェーズでは、可能な限り多様な経験を積むことが重要だ。これは機械学習におけるサンプル数の増加と同じで、データが多いほど精度の高い判断ができるようになる。
しかし、単に数をこなせばいいというわけではない。探索の質を高めることも同様に大切だ。以下に、効果的な探索のための具体的アプローチを紹介しよう。
多様な経験を効率的に得る方法
- 小さな試行を積み重ねる
時間とリソースは有限だ。だからこそ、大きなキャリアチェンジの前に、小さな形で新しい経験を積むことが有効である。例えば、
- 副業やプロジェクトベースの仕事: 本業を続けながら新しい分野に触れる
- ハッカソンやコンテスト: 短期集中で新しいスキルや協働スタイルを体験する
- ボランティア活動: 異なる価値観や環境に触れる機会になる
- 短期インターンシップ: 業界や組織文化を内側から知る
私自身、起業する前にハッカソンやインターンシップなどに参加した経験が、自分の適性を知る上で大きな助けとなった。エンジニアとして生きるのか、ビジネスサイドで生きるのかなど自分のポジションが定まらない悩みを持っていた。しかし、ハッカソンでは技術力では負けるもアイディアで優勝できることが多かった。エンジニア視点でビジネスの戦略を練ることができるのが評価されたのだ。
- 意図的に異なる環境に身を置く
探索の効率を高めるには、意識的に多様性のある経験を選ぶことが重要だ。例えば、
- 異なる規模の組織を経験する: 大企業とスタートアップでは求められる能力や価値観が大きく異なる
- 異なる役割を試す: 専門職だけでなく、管理職やプロジェクトリーダーなど
- 異なる業界や分野に触れる: 自分の専門を活かしつつ、異なる文脈で働いてみる
- 海外経験: 異文化での仕事は価値観や思考の幅を広げる
私が IT ベンチャーの SHIFT に 2016 年新卒入社した際、入社 2 ヶ月で社長室に配属された経験は貴重だった。エンジニアとしての専門知識を活かしながらも、経営の視点やリーダーシップについて学ぶ機会となり、自分の可能性の幅を広げてくれた。
- 擬似体験を活用する
実際に仕事として経験する前に、「お試し」できる方法も有効だ。
- 書籍やオンライン講座: 基本的な知識を得る
- シミュレーションやロールプレイ: 安全な環境で体験する
- メンターや実務家へのインタビュー: 実際の経験談から学ぶ
- シャドーイング: 実務家に一日密着して観察する
例えば、私は実際に起業する前に、起業家向けのイベントに参加したり、成功している経営者の話を聞いたりする中で、自分にとっての起業の意味や必要なスキルについての理解を深めていった。
探索の質を高める「× をつける」手法
探索フェーズで特に有効なのが、「自分に合わないものを特定する」というアプローチだ。「自分がやりたいこと」を直接見つけるのは難しいが、「やりたくないこと」や「合わないこと」は比較的容易に判断できる。
この「× をつける」消去法は、私がいつも強調している点だ。「好きを見つけるよりも簡単なのは好きじゃない、向いてないに × をつけていくこと」なのだ。
例えば、次のような判断をしていく。
- マーケティング「データ分析は楽しいが、クリエイティブな面は苦手」→△
- プログラミング「論理的思考は得意だが、長時間の集中作業は疲れる」→△
- 営業「人と話すのは好きだが、プレッシャーに弱い」→×
- 教育「相手の成長を支援するのが何より楽しい」→○
このように、「合わない」と感じた領域に × をつけていくことで、残った選択肢の中から自分に合った道が見えてくる。私自身、研究者としての道を考えていた時期もあったが、「長期的な 1 つのテーマに集中するより、様々な課題に取り組む方が性に合っている」と気づき、起業という選択に至った。
探索段階でのフィードバック収集
探索の質を高めるもう 1 つの重要な要素が、外部からのフィードバックだ。自己認識だけでは限界があり、他者からの客観的な評価が自分の強みを発見する手がかりになる。
具体的なフィードバック収集方法として、次のようなものがある。
- 上司や同僚からの正式な評価
- メンターや先輩からのアドバイス
- プロジェクト終了後の振り返り
- SNS や専門コミュニティでの反応
私自身、新卒で SHIFT の社長室に抜擢された経験から、ビジネスとコミュニケーションの面でも評価されることを知り、起業の道を考え始めた。このように、自分では気づかない才能や適性は、外部からのフィードバックによって発見されることが多い。
キャリア「活用」のタイミングと方法
探索を十分に行った後に訪れるのが、「活用」のフェーズだ。これは、見出した可能性を最大限に発揮するための段階である。
「この方向性で良さそう」と判断する基準
活用フェーズに移行するタイミングを見極めるのは難しい。しかし、以下のような兆候が見られたら、その方向性を深める価値があると考えられる。
- 継続的な興味: 時間が経っても関心が薄れない
- 没入感: 取り組んでいると時間を忘れる「フロー状態」になる
- 成長の実感: 努力に対して着実な上達を感じる
- 外部評価: 周囲から評価やポジティブなフィードバックを得る
- 将来性: その分野の市場価値や将来性に確信が持てる
これらの兆候が複数当てはまる場合、その方向性での活用フェーズに進む好機かもしれない。
私の場合、AI と教育分野への興味を見出した時、「時間を忘れて取り組める」「人の成長を目の当たりにするとやりがいを感じる」「技術と教育の両方の知識を活かせる」という要素が揃っていた。これらの兆候から、私は AI 教育分野での起業という「活用」のフェーズに進むことにした。
活用フェーズでの深堀りの方法
活用フェーズでは、特定した方向性において専門性と独自性を高めていくことが重要だ。具体的には次のような方法がある。
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体系的な学習
- 基礎から応用まで体系的に学ぶ
- 権威ある書籍や講座で知識を固める
- 最新の研究や動向をフォローする
-
実践的経験の蓄積
- 実際のプロジェクトで応用する
- 失敗と成功の両方から学ぶ
- 徐々に難易度の高い課題に挑戦する
-
コミュニティへの参加と貢献
- 同じ分野の専門家とのネットワーク構築
- 勉強会やカンファレンスでの登壇
- 知見の共有(ブログ、書籍、等)
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独自の視点の構築
- 既存の常識や方法論を批判的に検討
- 自分なりのアプローチや理論の確立
- 他領域の知見を取り入れた独自の視点
私の場合、AI と教育分野への興味を見出した後、それを深めるために起業という形の「活用」を選んだ。AI について体系的に学びながら、教育という文脈での応用を実践した。その過程で、単なる AI 技術者ではなく「AI 教育の専門家」という独自のポジションを確立できた。
探索と活用のバランスを取る
重要なのは、活用フェーズに入った後も適度な探索を継続することだ。完全に探索をやめてしまうと、視野が狭くなり、環境の変化に対応できなくなる危険がある。
特に変化の激しい現代社会では、次のようなバランスが有効だろう:
- メインの専門領域(活用): 時間とリソースの 70〜80%
- 関連する新領域の探索: 時間とリソースの 20〜30%
例えば、マーケティングの専門家として活動しながらも、最新の AI ツールやデータ分析手法など、関連する新技術に触れる時間を確保するといった具合だ。
このバランスをとることで、専門性を深めながらも環境変化への適応力を維持できる。私自身、AI 教育企業を経営していく中でも、常に新しい技術トレンドや教育手法に触れる「探索」の時間を意識的に確保している。それが結果的に、事業の革新につながっているのだ。
好きなことと得意なことの方程式
キャリア選択において避けて通れない問いが「好きなことを仕事にすべきか、得意なことを仕事にすべきか」という議論だ。これは私がよく受ける質問のひとつである。
「好きなこと」を仕事にする是非
「好きなことを仕事にしなさい」というアドバイスは、一見理想的に聞こえる。しかし、現実はそう単純ではない。
「好きなこと」を仕事にする際の課題として、次の点が挙げられる。
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好きなことが必ずしも市場価値を持つとは限らない
- 音楽や旅行が好きでも、それで十分な収入を得られる人は限られている
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好きなことが仕事になると、好きでなくなる可能性がある
- 趣味と仕事では取り組み方や圧力が異なる
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「好き」という感情は変わりやすい
- 若い頃の「好き」が生涯続くとは限らない
私の経験からも「好きなことは得意なことで稼いだお金を使って楽しむことで好きであり続けられる」ことが多い。
私自身、音楽(バンド活動)が好きだったが、それを職業にするのではなく、教育事業で得た収入で音楽活動を続けるという選択をした。そのおかげで、音楽への情熱は純粋なまま保たれている。
「得意なこと」が「好きなこと」になるメカニズム
私が強調したいのは、得意なことを仕事にすれば、それが好きになっていくというメカニズムだ。これには心理学的な裏付けがある。
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評価循環:得意なことは他者から評価されやすい。評価されると嬉しいため、さらに取り組むようになる。
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熟達の喜び:得意なことはより速く上達し、熟達感を味わいやすい。この成長実感が内発的動機付けを高める。
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自己イメージの形成:「私はこれが得意だ」という自己イメージが確立されると、それが自己アイデンティティの一部となり、自然と「好き」という感情に結びついていく。
私がいつも伝えているのは「得意なことをやれば、割と評価してもらえる。評価されると嬉しくなる。嬉しくなると好きになっていく好循環がある」ということだ。
評価されることの重要性と心理的影響
人は社会的な存在であり、他者からの評価は強力なモチベーション要因となる。特に職業選択において、この外部評価は軽視できない要素だ。
評価が持つ心理的影響として、次のようなものがある。
- 自己効力感の向上:「私にはこれができる」という確信
- 所属感:専門コミュニティの一員としての認識
- 成長マインドセット:更なる向上への動機づけ
私自身、SHIFT での経験から、自分のコミュニケーション能力やリーダーシップが評価されたことで、それまで意識していなかった「経営」という領域に興味を持つようになった。この経験が起業という選択につながっていったのだ。
したがって、キャリア選択においては「好きかどうか」だけでなく「評価される可能性が高いか」という視点も重要だ。得意なことで評価されるサイクルを作り出せれば、それが「好き」に変わっていく可能性が高い。
実践的な意思決定の最適化術
ここまでの理論を踏まえ、実践的な意思決定最適化の方法を提案したい。特に現代社会における新たな強みと、探索と活用を日常的に実践する方法に焦点を当てる。
変化の時代における新たな強み
ChatGPT のような生成 AI の登場により、多くの仕事の在り方が変わりつつある。しかし、これは人間の価値が下がることを意味しない。むしろ、求められる能力のレイヤーが変化するということだ。
変化の時代に価値が高まる能力には、次のようなものがある。
- 問題定義能力:何を解くべき問題なのかを定義する力
- システム思考:全体像を俯瞰し、複雑な要素間の関係を理解する力
- 領域知識との融合:技術と特定ドメインの知識を組み合わせる力
- 倫理的判断力:社会的インパクトを考慮できる力
- 創造性:既存の枠組みを超えた発想ができる力
これらの能力は、単なる反復作業よりも高次の能力であり、AI による代替が難しい。このような能力を意識的に育むことが、将来のキャリアにおいて重要になる。
探索と活用を日常的に実践する方法
探索と活用の原則を日常的に実践するための具体的なアプローチを紹介する。
- 20%ルールの実践
Google の「20%ルール」に着想を得た時間配分を試してみる。
- 仕事時間の 80%は主要プロジェクト(活用)に
- 残りの 20%は新しい技術や領域の探索に
この 20%の時間で、主領域と関連する新領域にも触れてみる。例えば、マーケティングの仕事をしながら、週に 1 日はデータサイエンスについて学ぶといった具合だ。
- T 型スキルセットの構築
T 型スキルセットとは、1 つの分野で深い専門性(縦棒)を持ちながら、複数の関連分野に幅広い知識(横棒)を持つことを指す。これはまさに探索と活用のバランスを体現している。
例えば、次のような例が考えられる。
- 深い専門性(活用):営業
- 幅広い知識(探索):マーケティング、商品知識、心理学、データ分析
- 定期的な自己評価と方向修正
探索と活用のバランスを最適に保つには、定期的な自己評価が欠かせない。
- 四半期ごとのスキル棚卸し
- 年 1 回の大きなキャリア振り返り
- 業界トレンドとの整合性チェック
これらの振り返りで「もっと探索が必要」と感じたら探索の比重を高め、「専門性を深めるべき」と感じたら活用にシフトする。
- 小さな実験の習慣化
大きな決断の前に、小さな実験を積み重ねる習慣をつける。
- 週末プロジェクト
- ボランティア活動
- オンラインコースの受講
- 副業やフリーランス案件
これらの小さな実験を通じて、興味のある分野への適性を低リスクで検証できる。
長期的なキャリア構築に向けて
最後に、長期的視点でのキャリア構築について考えたい。多くの人がキャリアの中盤で直面する課題は「専門性を深めるか、マネジメントに進むか」という選択だ。
この選択においても探索と活用の原則は有効だ。
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両方を探索する
- リーダー的な役割を試してみる
- 小規模なチームマネジメントを経験する
- メンタリングや教育活動に関わってみる
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適性に基づいて活用する
- 専門的なスキルで評価されることに喜びを感じるなら、専門性の道を
- 人の成長を支援することに喜びを感じるなら、マネジメントの道を
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ハイブリッドキャリアも視野に
- 技術と経営の両方に関わるポジション
- 専門分野のマネージャーやコンサルタント
- 専門知識を活かした起業家
私自身は、技術的バックグラウンドを持ちながらも、「人に AI を教える」という活動を通じて両方の要素を取り入れるハイブリッドなキャリアを選択した。これは、探索段階で「人の成長を支援することに喜びを感じる」という自分の傾向に気づいたからこそできた選択だった。
おわりに
意思決定の最適化は一度きりの選択ではなく、探索と活用を繰り返す継続的なプロセスだ。機械学習の最適化アルゴリズムが試行錯誤を通じて最適解に近づくように、私たちも様々な経験とフィードバックを通じて、自分にとっての最適な道を発見していく。
重要なのは、「完璧な選択」を求めるのではなく、十分な探索を行った上で決断し、その決断の中で最大限の活用を図ることだ。そして、環境の変化に応じて再び探索と活用のバランスを調整していく柔軟さを持つことだ。
変化の激しい現代社会を生きる私たちにとって、この「探索と活用の科学」は、単なる理論を超えた生存戦略となる。自分自身の人生という未知の関数の最適解を見つけるため、ベイズ最適化のような思考法を取り入れてみてはどうだろうか。
そして最後に、私の考えをまとめると「好きなことは何かと聞かれて答えられないのは当然だ。その代わりに、いかに多く探索し、自分に合わないものに × をつけていくか。そして、得意だと評価されたことを深め、それが好きになっていくプロセスを楽しむこと」。これこそが、持続可能なキャリアの核心なのかもしれない。