学びの普遍的課題と現代的文脈
「いかに学ぶか」
教育事業を長年運営し、多くの人材を育成してきた私がいつも立ち返る根源的な問いである。
技術領域を例にすれば、Next.js などのフレームワークで Web アプリケーションを作りたい初学者は、HTML、CSS、JavaScript、React、Next.js、TypeScript、デプロイというように段階的に基礎から進めるべきか。それとも、最初から Next.js+TypeScript+Tailwind CSS という組み合わせで、よくわからないまま作ってみるべきか。
ビジネススキルでも同様の問いがある。例えばデータ分析を学ぶ場合、統計学の基礎から始めて Excel、SQL、可視化ツールと順に学んでいくべきか。あるいは実際の事業課題に直接取り組み、必要な知識を都度調べながら進めるべきか。
マーケティングにおいても、顧客心理学や伝統的フレームワークを学んでから実践に移るべきか、小規模なキャンペーンを走らせながら試行錯誤で学ぶべきか。
そして現代において、この普遍的な問いは新たな文脈を得た。ChatGPT に質問すればわかる時代という前提が加わったのだ。全体環境が変われば最適解も変わる。この前提で、私たちはどのように学ぶべきなのだろうか。
この問いは、特定の分野に限った話ではない。あらゆる専門性の高い領域において、学びの最適な順序と方法に関わる普遍的な問いだ。AI 教育事業を運営し、自らも AI と協働してきた経験から、事実に基づいて未来を考えるための判断材料を共有したい。
二つの学習パラダイムの本質と対比
まず、2 つの主要な学習アプローチの特徴を整理しよう。
段階的・構造的学習アプローチは、基礎から順に学び、小さなコンポーネントを理解してから全体に進む「ボトムアップ型」の方法だ。土台となる知識を一通り網羅してから応用へ進む伝統的アプローチで、カリキュラムが体系立てられており、初心者が迷わず確実にスキルを積み上げられる利点がある。
- 技術領域での例: HTML/CSS→JavaScript→React→Next.js と段階的に進む
- ビジネス分析での例: 統計理論 →Excel スキル →SQL データ抽出 → 可視化 → 分析レポート作成
- マーケティングでの例: マーケティング原理 → 顧客心理 → 広告理論 → チャネル特性 → キャンペーン設計
一方、実践先行型学習アプローチは、最初から実際のプロジェクトやビジネス課題に取り組み、細部は理解できていなくても動くものを作る「トップダウン型」の方法だ。作りながら学ぶことで動機づけを高め、短期間で実用的な成果物を得やすい。特に AI 時代には、わからない点は ChatGPT などに質問して解決しながら進められる。
- 技術領域での例: 最初から Next.js アプリを作り、必要な知識を都度調べながら完成させる
- ビジネス分析での例: 実際の事業データから分析レポートを作成し、必要な分析手法を随時学習
- マーケティングでの例: 小規模キャンペーンを走らせ、結果を分析しながら次の施策を改善
両者の根本的な違いは、学びの順序と動機づけの源泉にある。段階的アプローチは理解の確実性を重視し、実践先行型は成果物への接近を動機として活用する。
この二項対立的な図式は教育論争でよく見られるが、実際にはどちらが絶対的に優れているわけではない。それぞれのアプローチが異なる認知的メカニズムに基づいており、状況や目的に応じた使い分けが重要だ。
学習科学からの洞察:教育工学と認知心理学の知見
これらのアプローチを科学的に評価するには、認知心理学や教育工学の知見が役立つ。
初学者への指導と認知負荷理論
認知心理学の観点からは、初心者には一定の指導・ガイダンスがあった方が効果的だという知見がある。キルシュナーらの研究(2006 年)によれば、「最小限の指導しか行わない教育法(発見学習や問題ベース学習など)は十分なガイダンスを伴う教育法に比べて効果も効率も劣る」とされている1。
これは認知負荷理論と呼ばれる考え方に基づいている。初心者がいきなり複雑な問題に取り組むと、ワーキングメモリ(作業記憶)に過度な負荷がかかり、効率的な学習が妨げられる。ワーキングメモリの容量には限りがあるため、初学者は基本的な概念や手順に集中できる環境が望ましいのだ。
プロジェクトベース学習の効果
しかし教育工学の分野では、学習者の能動性やコンテキストの重視も強調されている。プロジェクトベース学習(PBL)の有効性を調べたメタ分析研究では、伝統的講義形式に比べて PBL は学業成績、意欲・態度、思考力といった学習成果を有意に向上させることが示されている2。
特に 21 世紀型スキル(問題解決力や協働力など)の育成に PBL が寄与するという報告もある。実践的な文脈で学ぶことで、知識の転移可能性(異なる状況への応用力)も高まるとされている。
「望ましい困難さ」と長期的な学習効果
学習科学のもう 1 つの重要な概念は、「望ましい困難さ」(desirable difficulties)だ。これは、学習過程に適度な困難さを組み込むことで、短期的には苦労するものの、長期的な記憶定着や知識の転移が促進されるという考え方だ3。
例えば、すべての情報が整理された状態で与えられるよりも、学習者自身が情報を整理し関連づける必要がある方が、長期的には学習効果が高いことが示されている。この点では、実践先行型アプローチにおける試行錯誤が「望ましい困難さ」として機能する可能性がある。
知識と知性の階層構造から見た学習
前回の記事「AI は人間の知性を奪ったのか?」で扱ったDIKIW モデル(データ・情報・知識・知性・知恵)の観点からは、段階的学習が主に「知識」の層を構築するのに対し、実践先行型学習は「知性」(知識を実際に応用する能力)の層に直接アプローチすると考えられる。
問題は、特に AI 時代において「知性」の一部を AI にアウトソーシングすることによって、本来人間が鍛えるべき思考力や問題解決能力が衰退するリスクだ。単に「AI に聞けば答えが出る」という依存関係ではなく、AI と共に自らの思考力を高める関係を構築することが重要になる。
衝撃の実証研究:AI 時代の学習効果に関する新知見
2024 年、ペンシルバニア大学ウォートン・スクールのバスタニらのチームが、AI 活用学習に関する画期的な研究結果を発表した4。約 1,000 人の高校生を対象に、AI が数学学習に与える影響を厳密に検証したこの研究は、AI 時代の学習方法を考える上で極めて重要な示唆を与えてくれる。
実験デザインと衝撃的な結果
実験では、生徒を 3 グループに分け、AI の使用条件を変えて学習効果を比較した。
- 無制限 AI 使用群:標準的な ChatGPT インターフェースで自由に課題に取り組むグループ
- 制約付き AI 使用群:教師の意図したヒントを段階的に与えるガードレール付きの AI を使うグループ
- AI 非使用対照群:従来通り AI を使わずに学習するグループ
結果は衝撃的だった。AI 使用中は確かに成績が向上した(無制限群で 48%向上、制約付き群で 127%向上)。しかし、後日 AI アクセスを取り上げてテストを行うと、自由に AI を使っていたグループは AI を使わなかった対照群より成績が 17%も低下したのだ。
一方、ガードレール付きでヒントを最小限に抑えたグループではこのような負の効果はほぼ見られなかった。つまり、AI の使い方次第で学習効果が大きく変わるということだ。
AI 依存のリスクと対策
AI への過度な依存は「車椅子効果」を生む恐れがある。短期的な効率向上と引き換えに、長期的には自力で歩く(思考する)能力が衰える可能性がある。
この研究から導かれる重要な示唆は、適切な制約のない AI 使用は、短期的な効率向上と引き換えに、長期的な学習能力を損なう可能性があるということだ。自分で考えるべき局面で AI に完全に頼ると、表面的には課題を「解決」できても、根本的な理解や思考力は育まれない。
バスタニらの研究が示唆するのは、AI 時代の最適な学習方法は、AI を全く使わないことでも、無制限に使うことでもなく、適切なガードレール(安全策)を設けた AI 活用だということだ。
プログラミングとビジネススキル学習への示唆
この知見は、プログラミングやビジネススキルの学習にも深く関連する。実践先行型のアプローチで AI に依存しすぎると、表面的にはアプリやビジネスレポートが完成したように見えても、根本的な理解や応用力が育まれない危険性がある。
例えば、プログラミングでエラーが出たとき、なぜそのエラーが起きたのかを考える代わりに、すぐに AI にコード修正を依頼するだけでは、デバッグのスキルや根本的な言語理解は育たない。マーケティング戦略の立案でも、AI が生成した計画をそのまま採用するだけでは、市場理解や戦略思考は身につかない。
効果的な AI 活用学習には、次のような要素が重要だ。
- 段階的ヒント:一度に全ての答えを与えるのではなく、徐々にヒントを提供する
- 思考過程の要求:単なる答えではなく、思考プロセスの説明を求める
- 反復的フィードバック:学習者の反応に基づいて適応的にサポートする
- 適切な困難さの保持:完全に障壁を取り除かず、適度な挑戦を残す
学習方法論の歴史的変遷:技術とパラダイムの共進化
学びの方法は時代とともに進化してきた。専門知識の習得法は、テクノロジーや社会環境の変化に応じて大きく変容してきたのだ。過去 30 年以上にわたる変遷を振り返ると、AI 時代の学習を考える上で重要な洞察が得られる。
専門知識習得パラダイムの変遷
伝統的教育機関中心の時代
大学や専門学校での体系的教育が主流。技術書を通じた独学も一般的。インターネット前夜の情報アクセスが限られた時代。
初期インターネット学習中心の時代
オンラインフォーラムやQ&Aサイトの台頭。Stack Overflowなどコミュニティベースの相互学習が始まる。技術情報の民主化の始まり。
MOOC革命
CourseraやedXなどの大規模オンライン講座が登場。世界トップレベルの教育コンテンツへのアクセスが可能に。体系的なオンライン学習の普及。
ブートキャンプモデルの台頭
短期集中型のコーディングブートキャンプが世界各地で人気に。就職・転職に直結する実践的スキル習得を重視。速習型学習の時代。
学習リソースの多様化
YouTubeやUdemyなど多様な学習プラットフォームが普及。個人の学習スタイルに合わせたカスタマイズが可能に。選択肢の増加と細分化。
パンデミックによるオンライン化加速
COVID-19によりリモート学習が標準に。Zoomを使った対話型学習やDiscordコミュニティの活性化。デジタル学習環境の本格的普及。
ChatGPT登場
対話型AIの登場により「わからないことはAIに聞く」文化が急速に普及。知識獲得の即時性と個別化が進む。AIチュータリングの時代へ。
AI協働開発の普及
GitHub Copilotなど開発補助AIの一般化。開発者の69%がAIツールを試用、49%が日常的に使用。AIと人間の役割分担の模索が始まる時期。
ハイブリッド学習モデルの確立
AIと人間の相互補完型学習が主流に。メタスキル(AIへの適切な質問、出力の評価能力)の重要性が高まる。新たな教育パラダイムの萌芽期。
職業訓練と学習効果のデータから見る変化
学習方法の変遷に伴い、その効果測定も進化してきた。興味深いのは、プログラミングスクールの効果に関する最近のデータだ。2025 年初頭の調査では、プログラミングスクール受講者の 85%が目標の半分以上を達成し、およそ 7 割が年収アップを報告している5。
しかし、これは表面的な成功指標に過ぎない部分もあると私は考えている。私がAI 協働時代の人材投資戦略で指摘したように、単に「転職できた」「年収が上がった」という短期的指標だけでは本質的な成功とは言えない。長期的に価値を生み出し続けられる専門性を構築できたかこそが重要だ。
AI ツール普及の実態
AI 開発サポートツールの普及は急速に進んでいる。2024 年の調査では開発者の 69% が ChatGPT や Copilot 等の AI アシスタントを試し、約 49% が日常的に利用している6。こうした変化の中で、基礎力と実践力のバランスという永遠のテーマは形を変えながらも継続している。AI 時代においては、「何を自分で理解するか」と「何を AI に委ねるか」という判断がより重要になっている。
知識階層から見た最適な学習戦略
前回の記事「AI は人間の知性を奪ったのか?」で扱ったDIKIW モデル(データ・情報・知識・知性・知恵)の視点から、両学習アプローチを考察しよう。以下の図に DIKIW 階層と学習アプローチの関係をまとめた。
段階的学習アプローチは主に「知識」の層の構築に重点を置き、実践先行型アプローチは「知性」の層(知識の応用・パターン認識・問題解決)に直接アプローチする。重要なのは、現代の AI が「知識」の層を大きくカバーし、「知性」の一部にも踏み込みつつあるという点だ。
AI 時代における最適な学習戦略は、AI に委ねられる部分と人間が主体的に担うべき部分を明確に区別することにある。「知識」の層は AI の支援を受けつつ効率的に習得し、「知性」と「知恵」の層は人間が深く関わるべきだ。
ハイブリッド・イテレーティブ学習モデル
バスタニらの研究が示すように、AI に完全に依存するのではなく、適切なガードレール(安全策)を設けた AI 活用が効果的だ。これを踏まえた効果的な学習戦略として、「ハイブリッド・イテレーティブ学習モデル」を提案したい。
このモデルでは、基礎的な知識とプロジェクト実践を小さなサイクルで繰り返し、AI を補助ツールとして活用する。重要なのは、「基礎 → 実践 → 振り返り」のサイクルを高速で回すことだ。AI 時代の最適解は、この高速サイクルの中で基礎力と実践力を同時に磨いていくことにある。
3000 時間の専門性構築:経験則からの学び
専門性の深い構築には、一定の時間と没頭が不可欠だ。私は経験則として、ある領域の専門家になるには「3000 時間」程度の集中的な取り組みが必要だと考えている。研究者コミュニティでもよく言われるこの目安は、1 日 10 時間、月 25 日取り組めば 250 時間、それを 12 ヶ月続ければ達成できる計算だ。
この 3000 時間の過程は決して平坦ではない。最初の数百時間は順調に感じるかもしれないが、500 時間から 1500 時間の間に訪れる「停滞期」が多くの人を挫折させる。しかし 2000 時間を超えたあたりから専門性が形となり始め、3000 時間に達する頃には確かな専門性が身についているだろう。
プロとして働きたいなら少なくとも 1 年は短期的な成果など求めずにまずは自身が修行すべきだと考えを改めるところからである。3000 時間同じことに没頭できたならば、それはあなたの強い味方になるはずだ。
「3000 時間の法則」は厳密な学術研究で実証されたものではなく、専門家の経験や実践から導かれた経験則です。マルコム・グラッドウェルの「1 万時間の法則」ほど有名ではありませんが、実践的な専門性獲得の目安として参考になります。
学習者タイプ別最適戦略:あなたの状況に合わせた学び方
学習効果を最大化するためには、学習者自身の特性や目標に合わせた戦略選択が重要だ。それぞれのタイプに応じた最適アプローチを考えよう。
完全初学者向け:認知負荷に配慮した段階的アプローチ
まったくの初学者の場合、まずは認知負荷を抑えた段階的アプローチから始めるのが効果的だ。全く新しい分野では、基本的な概念や用語を理解するための足場が必要になる。
プログラミング領域の例:
- まず HTML/CSS の基本概念と構文を学ぶ(2-3 週間)
- JavaScript の基礎を理解する(1-2 ヶ月)
- 小さなプロジェクトに取り組む(例:シンプルな ToDO アプリ)
- 振り返りと基礎の補強
- 次のステップ(React 等)へ進む
ビジネス分析の例:
- データ分析の基礎概念と Excel の基本操作を学ぶ
- 簡単なビジネスデータ分析に取り組む
- 分析結果の解釈と振り返り
- さらに高度なツール(Tableau 等)へ進む
キャリアチェンジャー向け:転用可能なスキルを活かす戦略
すでに別の専門分野を持つ人が新しい分野に挑戦する場合は、既存のスキルや思考法を活かしたアプローチが効果的だ。
転用可能なスキルの特定:まず、既存の専門性から新分野へ転用できるスキルや思考法を特定する。例えば、理系バックグラウンドの人がプログラミングを学ぶ場合、論理的思考やプロセス分解能力が強みになる。
実践重視のアプローチ:既存の思考フレームワークがあるため、比較的早い段階から実践プロジェクトに取り組める。ただし、分野特有の基礎概念は確実に押さえる。
AI を活用した知識ギャップの補完:専門用語や文脈理解のギャップを AI で効率的に埋めながら進める。
実務者向け:問題解決力を高める高速イテレーション
すでに基礎レベルの知識を持ち、より高度な専門性を目指す実務者には、問題解決に直結する高速イテレーションが有効だ。
- チャレンジングなプロジェクト選定:現在の能力よりやや難しいレベルのプロジェクトに取り組む
- 複数の解法比較:同じ問題に対して複数のアプローチを試し、それぞれの利点・欠点を理解する
- 専門家フィードバック:コミュニティやメンターからの定期的なフィードバックを受ける
- 体系的振り返り:プロジェクト完了後に学びを体系化し、概念理解を深める
リーダー・マネージャー向け:俯瞰的理解と実践的知恵の統合
チームを率いる立場の人には、技術的詳細と大局的視点を統合するアプローチが必要だ。
- 全体像の把握:まず分野全体のマップを理解し、各要素の関連性を掴む
- 多様なケーススタディ分析:成功・失敗事例から学び、パターンを認識する
- 指導経験を通じた学習:チームメンバーに教えることで自らの理解を深める
- 意思決定プロセスの改善:専門知識を実際の意思決定に適用し、結果から学ぶ
成果を最大化する具体的学習戦略
実証研究と理論的考察を踏まえて、成果(収入向上やキャリア形成)を最大化するための具体的アプローチを提案したい。
高速イテレーション学習モデルの実践
「基礎 → 実践 → 振り返り」のサイクルを高速で回す学習モデルの実践手順は以下の通りだ。
- 小さな目標設定:2-4 週間で達成可能な明確な学習目標を設定する
- 最小限の基礎理解:その目標に必要な最低限の基礎概念を理解する
- 小規模プロジェクト実践:学んだ概念を実際のプロジェクトで応用する
- 振り返りと知識の体系化:実践で得た気づきを整理し、体系的に理解を深める
- 次のレベルへ拡張:新たな目標を設定し、サイクルを繰り返す
このサイクルで AI を効果的に活用するポイントは以下の通りである。
- 回答をそのまま使わず、複数の選択肢を生成させて比較検討する
- なぜそうなるのか理由を説明させ、自分の理解を深める
- 自分の考えをまとめてから AI に評価・フィードバックを求める
- AI の出力を批判的に検証する習慣を身につける
具体的な Next.js 学習パスの例
Web アプリケーション開発を学ぶ場合の具体的な学習パスを例示しよう。
イテレーション 1: 基本的な Web アプリの作成(4 週間)
- 最小限の基礎:HTML/CSS 基礎と JavaScript の基本構文(1 週間)
- 小規模プロジェクト:シンプルな Web ページの作成(2 週間)
- 振り返り:学んだ概念の整理と理解の深化(1 週間)
イテレーション 2: インタラクティブ機能の実装(4 週間)
- 最小限の基礎:JavaScript DOM 操作とイベント処理(1 週間)
- 小規模プロジェクト:インタラクティブな要素を持つ Web アプリ(2 週間)
- 振り返り:問題点の分析と解決策の検討(1 週間)
イテレーション 3: Next.js フレームワークの活用(6 週間)
- 最小限の基礎:React/Next.js の基本概念(1-2 週間)
- 小規模プロジェクト:Next.js を使った簡単な Web アプリ(3 週間)
- 振り返り:フレームワークの利点と制約の理解(1 週間)
イテレーション 4: 本格的な Web アプリケーション開発(8 週間)
- 最小限の基礎:TypeScript と Tailwind CSS の基本(2 週間)
- 小規模プロジェクト:複合機能を持つ Web アプリ開発(4 週間)
- 振り返り:プロジェクトの評価と改善点の分析(2 週間)
各イテレーションで AI を活用することで、つまずきを素早く解決しながらも、自身の思考力や問題解決能力を育てることができる。
ビジネス分析スキル習得の例
ビジネス分析スキルを習得する場合も同様のアプローチが効果的だ。
イテレーション 1: 基本的なデータ分析(4 週間)
- 最小限の基礎:基本統計概念と Excel の操作(1 週間)
- 小規模プロジェクト:実際のビジネスデータの基本分析(2 週間)
- 振り返り:分析プロセスと結果の評価(1 週間)
イテレーション 2: 高度な分析手法(6 週間)
- 最小限の基礎:ピボットテーブルと SQL の基本(2 週間)
- 小規模プロジェクト:複数データソースの統合分析(3 週間)
- 振り返り:分析の効率と精度の評価(1 週間)
イテレーション 3: 可視化とレポーティング(6 週間)
- 最小限の基礎:データ可視化の原則とツール(1-2 週間)
- 小規模プロジェクト:インタラクティブダッシュボードの作成(3 週間)
- 振り返り:ストーリーテリングと情報伝達の評価(1 週間)
イテレーション 4: ビジネスインサイト導出(8 週間)
- 最小限の基礎:ビジネスフレームワークと意思決定理論(2 週間)
- 小規模プロジェクト:実際のビジネス課題に対する分析と提案(4 週間)
- 振り返り:提案の影響と改善点の分析(2 週間)
他者との学びと成長のネットワーク構築
学習効果を高めるもう 1 つの重要な要素は、他者との学びのネットワークを構築することだ。特に AI 時代には、人間同士の協働と相互フィードバックの価値が高まっている。
- 学習コミュニティへの参加:同じ目標を持つ仲間との情報共有と相互成長
- メンターシップの活用:経験者からの指導とフィードバック
- アウトプットの習慣化:学んだことをブログや SNS で発信し、フィードバックを得る
- ペアプログラミング/ペア学習:他者と共に課題に取り組み、多角的視点を得る
AI との協働は効率を高めるが、人間同士の協働は創造性と視野を広げる。両者をバランス良く活用することが、真の成長には不可欠だ。
現代の学びにおける本質と未来展望
ここまで様々な角度から学習アプローチを検討してきたが、最終的に重要なのは、「基礎から順に学ぶ」か「作りながら学ぶ」かという二項対立を超えた視点だ。
メタ認知的学習者になる
AI 時代に求められるのは、自分の学びのプロセスを客観的に観察し、調整できるメタ認知的学習者になることだ。これは単に知識を得るだけでなく、自分がどのように学んでいるかを理解し、最適化する能力である。
メタ認知的学習者は以下のような特徴を持つ。
- 学びの目的を明確に意識する:なぜ学ぶのか、どんな成果を目指すのかを常に意識する
- 自分の理解度を正確に評価できる:自分が何を知り、何を知らないかを正確に把握する
- 状況に応じて学習戦略を柔軟に調整できる:基礎学習と実践のバランスを状況に応じて変える
- AI との適切な協働関係を構築できる:AI を道具として使いこなし、依存しない
AI 時代の教育者の役割
私は「あるべき教育で人の力を解放する」というミッションを掲げてきた。AI 時代において、教育者の役割は大きく変わりつつある。知識の伝達者から、学びの伴走者へと変化しているのだ。
重要なのは、AI が代替できる部分と人間にしかできない部分を見極め、人間の可能性を最大化する教育のあり方を追求することだ。それは単に効率よく知識を得ることではなく、真の意味で「考え続ける力」を育むことにある。
次のステップ:あなたの学びをデザインする
この記事を読んだあなたへの具体的な提案として、以下のステップを実践してほしい。
- 学びの目的を再定義する:なぜその技術やスキルを習得したいのか、本質的な目的を明確にする
- 自分の学習スタイルを振り返る:これまでの学習経験から、自分に合うアプローチを分析する
- 小さな学習サイクルを設計する:2-4 週間の小さな目標とイテレーションを計画する
- AI との健全な関係を構築する:依存せず、しかし効果的に活用するルールを自分で設定する
- 学びの仲間を見つける:一人で学ぶのではなく、共に成長できる環境を整える
楽な道を選ぶか、学びの本質を追求するか。その選択が、あなたの未来を大きく左右するだろう。最終的に大切なのは、表面的な知識ではなく、深い理解と応用力だ。AI 時代だからこそ、その本質は変わらない。
参考文献
Footnotes
-
Kirschner, P. A., Sweller, J., & Clark, R. E. (2006). Why minimal guidance during instruction does not work: An analysis of the failure of constructivist, discovery, problem-based, experiential, and inquiry-based teaching. Educational Psychologist, 41(2), 75-86. ↩
-
Chen, C. H., & Yang, Y. C. (2019). Revisiting the effects of project-based learning on students' academic achievement: A meta-analysis investigating moderators. Educational Research Review, 26, 71-81. ↩
-
Bjork, R. A., & Bjork, E. L. (2011). Making things hard on yourself, but in a good way: Creating desirable difficulties to enhance learning. Psychology and the real world: Essays illustrating fundamental contributions to society, 2, 59-68. ↩
-
Bastani, H., Bastani, O., Sungu, A., Ge, H., Kabakcı, Ö., & Mariman, R. (2024). Generative AI Can Harm Learning. Wharton School Research Paper. ↩
-
TAG STUDIO (2025 年 1 月). プログラミングスクール受講による成果に関する調査結果. PR TIMES. ↩
-
JetBrains (2024). State of Developer Ecosystem Report. Software Developers Statistics 2024. ↩