技術

Google発のAgent2Agent (A2A)プロトコルの完全ガイド:LLMエージェント連携の新時代

MCPとの互換性から組織の戦略まで解説するAIエージェントエコシステムの未来図

2025-04-10
36分
AIエージェント
LLM
MCP
Agent2Agent
AI技術
組織変革
ChatGPT
吉崎 亮介

吉崎 亮介

株式会社和談 代表取締役社長 / 株式会社キカガク創業者

Google発のAgent2Agent (A2A)プロトコルの完全ガイド:LLMエージェント連携の新時代

エージェント型 AI の新時代。変わる連携の形

この記事を書く 2 日前、私はModel Context Protocol (MCP)で変わる AI エージェント開発という記事を公開した。そのタイミングで、Google が「AI エージェント同士が対話する」ための新たな標準規格を発表したことは非常に興味深い。このタイミングは偶然ではなく、AI エージェント技術の次なる重要課題が「相互運用性と連携」であることを業界全体が認識している証左だと考えている。

Google は 2025 年 4 月 9 日に開催された Google Cloud Next '25 において、Agent2Agent(A2A)プロトコルを発表した1。この技術は単に新機能を追加するものではなく、エージェント型 AI の在り方そのものを変える可能性を秘めている。私は長年 AI 教育事業を運営し、人材育成や組織変革に取り組む中で、技術がいかに組織や人を変えるか、そしてその逆もまた然りであることを見てきた。A2A という技術もまた、単なる技術仕様を超えた影響力を持ちうると感じている。

A2A とは何か?簡潔に言えば、AI エージェントが、その基盤となるフレームワークやベンダーの出自に関わらず、相互にコミュニケーションを取り、安全に情報を交換し、様々なプラットフォーム上でアクションを調整できるように設計されたオープンプロトコルである2。これは、異なるベンダーやフレームワークで構築された AI エージェント間のコミュニケーションと連携を可能にすることを目的としている。

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私が A2A に強く関心を持つ理由は、AI の進化と組織変革の間に興味深い類似点を見出すからだ。私はこれまで組織コミュニケーションの改革に取り組む中で、部門間の「サイロ化」がいかに価値創出の妨げになるかを目の当たりにしてきた。人間の組織におけるコミュニケーション課題と、AI エージェント間の連携課題には驚くほど多くの共通点がある。

この記事では、A2A プロトコルの技術的仕組みを解説するだけでなく、MCP との関連性や、これらの技術が実際の組織やビジネスプロセスにどのような影響をもたらすかを掘り下げていく。さらに、すべてを鵜呑みにするのではなく、プロトコルとしての将来性について冷静に判断するための批判的な視点も併せて提供したい。

エージェント間連携の課題と解決策。サイロ化に立ち向かう

AI エージェントが複雑なタスクを自律的に解決する能力を持つようになるにつれ、新たな課題が浮上している。それは断片化(フラグメンテーション)とサイロ化の問題だ。

断片化する専門エージェントたち

企業が特定の業務領域やタスクに特化した AI エージェントを、様々な部門、プラットフォーム、ベンダー(Google の ADK、LangGraph、Crew.ai など多様なフレームワーク)で導入を進めるにつれて、これらのエージェントが互いに効果的にコミュニケーションを取り、連携できない状況が生まれている3。これは技術の世界における「サイロ」の形成であり、私が組織変革の現場で幾度となく対峙してきた課題と本質的に同じものだ。

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各エージェントが独自の「言語」で動作し、他のエージェントと対話する標準的な方法を持たないため、それぞれが孤立した島となっている。この状況は、組織における部門間コミュニケーション障壁と驚くほど似ている。私は株式会社和談を創業した際、「対話の再定義による組織変革の実現」をミッションに掲げたが、AI エージェント間の「対話」もまた同様に再定義される必要があるのだ。

JSON-RPC という共通言語

A2A プロトコルは、エージェント間コミュニケーションの断片化問題に対処するために設計された。重要なのは、A2A が既存の確立された技術標準の上に構築されている点だ。HTTP、リアルタイムな更新通知のために Server-Sent Events (SSE)、そしてリクエストとレスポンスの構造化のために JSON-RPC(JSON Remote Procedure Call) を A2A プロトコルの技術的基盤の核となる要素の 1 つとして採用している4。これは MCP も同様である。これらはいずれも広く普及している既存の Web 標準技術だ。これは極めて合理的な選択だと言える。既存技術を基盤とすることで、開発者は既知の技術スタックで実装でき、採用障壁を下げることができる。

JSON-RPC とは何か?これは異なるコンピュータシステム間でリモート関数を呼び出すためのシンプルなプロトコルで、データ形式として JSON を使用する。リクエストとレスポンスの構造が明確に定義されており、さまざまな言語やプラットフォームで実装が容易な特徴を持つ。

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A2A が目指す連携の世界

A2A プロトコルは、エージェント間の「通訳」として機能することで、異なるシステム、部門、あるいは組織にまたがるタスクの自動化を実現しようとしている。

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この統一された通信プロトコルにより、以下のような利点が生まれる。

  1. エージェント間の発見と能力広告:各エージェントが自身の能力を「Agent Card」として公開
  2. 標準化されたタスク委託:あるエージェントが他のエージェントに明確に定義されたタスクを依頼
  3. 成果物の構造化された交換:データや結果を標準形式で受け渡し
  4. クロスベンダー相互運用性:異なるベンダーのエージェント間での連携を実現

これは、組織変革の文脈で言えば、部門間の壁を越えた円滑なコミュニケーションチャネルの構築に相当する。しかも、標準化されたプロトコルは、各エージェントがその「専門性」を保ちながらも、必要に応じて他のエージェントの専門知識やツールにアクセスできる柔軟性をもたらす。

A2A と MCP の関係性。2 つの補完的プロトコル

私が 2 日前に書いたMCP に関する記事との関連で最も重要なのは、A2A と MCP が競合ではなく補完的な関係にあるという点だ。それぞれが異なる問題を解決するために設計されている。

「ツール操作」と「会話」の違い

MCP と A2A の根本的な違いを理解するために、以下の図を見てみよう。

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MCP は「垂直方向」の連携だ。AI エージェントがツールやデータソースといった「非 AI システム」と連携するための標準だ。例えば、ブラウザの操作、データベースへのクエリ、ファイル操作などを可能にする。

一方、A2A は「水平方向」の連携だ。異なる AI エージェント間で、その能力やサービスを共有し合うための標準だ。例えば、顧客サポートエージェントが専門的な質問を製品エージェントに転送したり、スケジューリングエージェントが会議の調整を他のエージェントに委任したりする。

これらは相互に排他的ではなく、むしろ相補的だ。Google の公式情報によれば、A2A は MCP を「補完する」ものとして位置づけられている4。各自が異なる問題に対処しているため、両方を組み合わせることで、より強力なエコシステムが構築できる。

連携の具体例

A2A と MCP がどのように組み合わさるかを、具体的な例で見てみよう。

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この例では、ユーザーのパーソナルエージェントが、A2Aを使って専門的なリサーチエージェントにタスクを委託している。リサーチエージェントはMCPを使って社内データベースやウェブブラウザといった外部ツールを操作し、必要な情報を収集する。そして最終的に、再びA2Aを使ってパーソナルエージェントに結果を返している。

このように、MCP と A2A は異なるレイヤーで連携し、より包括的なエージェントエコシステムを構築する。一方がエージェントとツールの接続を、もう一方がエージェント同士の接続を担当するという明確な役割分担がある。

組み合わせの価値

A2A と MCP の組み合わせにより、以下のような高度なシナリオが可能になる。

  1. 複数領域の知識を要するタスク。例えば、法的文書の分析と財務データの解釈を組み合わせる
  2. マルチステップの複雑なワークフロー。データ収集 → 分析 → レポート作成 → 配信を異なるエージェントで分担
  3. 組織横断的プロセス。異なる部門のシステムやデータに接続された専門エージェント間の連携
  4. エッジケースへの対応。主担当エージェントが対応できない問い合わせを専門エージェントへエスカレーション

私の組織コミュニケーション研究の観点から見ると、これは組織内の専門性の分散と統合という古典的課題に対する技術的解決策にも見える。専門性を持つ「人」の連携にも似た構造があり、A2A と MCP の組み合わせはまさに「組織のデジタルツイン」とも言えるかもしれない。

A2A の技術アーキテクチャ:エージェント間通信の仕組み

A2A の技術的詳細を理解するために、そのアーキテクチャと主要コンポーネントを詳しく見ていこう。

クライアント-サーバーモデル

A2A は基本的にクライアント-サーバーアーキテクチャに基づいている。あるエージェントが「クライアント」として機能し、別のエージェントが「サーバー」として機能する。この関係は固定されたものではなく、状況に応じて役割が入れ替わることもある。

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Agent Card による能力広告

A2A の重要な概念の 1 つは「Agent Card」だ。これは各エージェントが自分の能力や提供可能なサービスを広告するための JSON メタデータだ5。Agent Card には以下の情報などが含まれる。

  • エージェントの識別子
  • 名前と説明
  • タイプ(一般的なアシスタント、特定分野の専門家など)
  • 認証スキーム
  • 提供可能なサービスや機能

これは名刺のデジタル版と考えることができ、エージェントが初めて出会ったときに交換される。Agent Card により、エージェントは他のエージェントの能力を理解し、適切なタスク委託先を選択できる。

タスク交渉と実行フロー

A2A の基本的なインタラクションフローは以下のようになる。

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  1. 発見フェーズ:クライアントエージェントが適切な能力を持つリモートエージェントを検索
  2. 交渉フェーズ:クライアントとリモートエージェントがタスクの詳細(パラメータ、期待される出力形式など)を交渉
  3. 実行フェーズ:リモートエージェントがタスクを実行し、経過を報告
  4. 完了フェーズ:リモートエージェントが結果や成果物をクライアントに提供

特に興味深いのは、A2A がステートフルなタスク管理をサポートすることだ。つまり、長時間実行されるタスクや、完了までに数時間、場合によっては数日かかる可能性のある処理もサポートしている。これは実用的なビジネスプロセスの自動化にとって不可欠な機能だ。

成果物交換メカニズム

A2A における「Artifact(成果物)」は、タスク実行の結果として交換されるデータやファイルを指す4。これには以下のようなものが含まれる。

  • ドキュメントやレポート
  • データセットや分析結果
  • 画像や図表
  • 構造化データ(JSON、XML など)

A2A は、これらの成果物をエージェント間で交換するための標準化された方法を定義し、コンテンツタイプの交渉もサポートしている。これにより、異なる形式やサイズの成果物を適切に処理できる。

マルチモーダル対応とリッチインタラクション

A2A は単純なテキストベースの対話だけでなく、音声や動画ストリーミングを含む多様なコミュニケーションモダリティをサポートしている4。これにより、より自然で人間らしいインタラクションが可能になる。

例えば、音声対応のアシスタントエージェントが適切な回答を知らない場合、A2A を通じて専門的なエージェントにクエリを転送し、その回答を音声で再生できる。あるいは、視覚的な分析を提供するエージェントが、データビジュアライゼーションを別のエージェントに送り、そのエージェントがユーザーに表示することもできる。

Google のエージェント戦略とエコシステム:A2A の位置づけ

A2A を理解するためには、Google 全体の AI エージェント戦略の中での位置づけを把握することが重要だ。A2A は単独の技術ではなく、Google が推進する包括的な AI エージェントビジョンの一部として設計されている。

Google の包括的エージェントスタック

Google は一連の AI エージェント関連技術を組み合わせたスタックを構築している。A2A はその中の重要な接続層だ。

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このスタックの主要コンポーネントは以下のとおりだ。

  1. Gemini モデル:エージェントに高度な推論能力を提供する基盤 LLM1
  2. Agent Development Kit (ADK):エージェント開発を簡素化するオープンソースのフレームワーク6
  3. Agent Engine:エージェントをデプロイ、スケーリング、管理するためのランタイム3
  4. Agentspace:組織内でエージェントを活用するためのエンタープライズプラットフォーム1
  5. AI Agent Marketplace:パートナーエージェントの発見と導入を容易にする場7

この中で A2A は、異なるコンポーネント間、特に異なるベンダーのエージェント間の相互運用性を確保するための「潤滑剤」として機能する。「接続組織(connecting tissue)」と表現されることもある。

「オープン」を標榜する戦略の真意

Google は、A2A を「オープンプロトコル」として強調し、50 社以上のパートナー企業の支持を受けていることをアピールしている1。これには明確な戦略的意図がある。

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真にオープンなプロトコルでなければ、特に AWS、Microsoft、Anthropic などの競合がいる環境では広範な採用を得ることが困難だ。「オープン」を掲げて多数のパートナーを巻き込むことで、A2A をデファクトスタンダードとして確立し、Google Cloud 中心のエコシステムを構築する狙いがある。

これは私の事業での経験にも通じる。私はキカガクで技術講座を提供する際、常に「オープン性」と「専門性」のバランスを考えてきた。基盤となるフレームワークは広く共有しつつも、その上で独自のノウハウや付加価値を提供することで、ロックインと普及のバランスを取る戦略だ。

しかし、その裏には「緩やかなロックイン」も見え隠れする。A2A は確かにオープンだが、Google の ADK、Agent Engine、Vertex AI との統合性が最も高い3。つまり、A2A を採用することで、自然と Google のより広範なスタックへの依存が高まる可能性がある。これは戦略的に見れば当然の設計だが、ユーザーとしては認識しておくべき点だ。

パートナーエコシステム戦略

A2A のパートナーエコシステムは、複数のカテゴリーで構成されている。

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最も注目すべきは、主要なエンタープライズ SaaS ベンダー(Salesforce、SAP、ServiceNow など)が多数含まれていることだ。これは、A2A が単なる実験的技術ではなく、エンタープライズビジネスプロセスの自動化に焦点を当てていることを示している。

また、大手システムインテグレーターの参加も重要だ。システムインテグレーターは実際の企業への AI 導入を担当する立場にあり、彼らが A2A を支持することで、多くの大企業への導入が加速する可能性がある。

A2A の「オープン性」と広範なパートナーエコシステムは、プロトコルの普及に大きく貢献するだろう。しかし、その進化と管理がどこまで真に「オープン」であり続けるかという点は、注意深く観察する必要がある。

ビジネス価値と実践事例。マルチエージェント協調の可能性

A2A の技術的側面を理解したところで、この技術が実際のビジネスや組織にどのような具体的価値をもたらすのかを検討しよう。特に興味深いのは、マルチエージェントによる協調作業の可能性だ。

A2A がもたらす中核的ビジネス価値

A2A プロトコルがビジネスにもたらす最も重要な価値は以下の通りだ。

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特に「サイロ打破」と「専門性分散」は、私の組織変革の経験からも特に重要だと感じる要素だ。多くの企業では、部門やシステム間の連携不足が業務効率や顧客体験の大きな障壁となっている。A2A は、この問題に対するテクノロジー側からのアプローチとして機能する可能性がある。

私がキカガクや和談で常に注力してきたのは、「人間の知識とスキルを最大限に活かす環境づくり」だ。A2A はこれをデジタル空間で実現するための手段となりうる。人間の組織では、専門家同士が効果的に連携することで大きな成果を生み出せるが、同様のことが AI エージェント間でも可能になるのだ。

具体的なユースケース分析

採用プロセスの自動化

Google が提示した採用プロセスの例は、A2A の価値を具体的に示すものだ。

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  1. マネージャーが自身のパーソナルエージェントに指示
  2. パーソナルエージェントが A2A を使って以下の専門エージェントにタスクを委託
    • 人材紹介会社の外部エージェントに候補者の検索を依頼
    • スケジューリングエージェントに面接の調整を依頼
    • バックグラウンドチェックエージェントに調査を依頼
  3. 各専門エージェントが結果をパーソナルエージェントに返送
  4. パーソナルエージェントが統合された情報をマネージャーに提示

このプロセスの特筆すべき点は、組織の内外にわたる複数のサービスやシステムが連携している点だ。従来なら手作業で行われていた候補者の検索、面接のスケジューリング、身元調査といった作業が、エージェント間の連携により大幅に自動化される。

カスタマーサービスのエスカレーション

もう 1 つの有望なユースケースは、カスタマーサービスのインテリジェントなエスカレーションだ。

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  1. 顧客が一般的なサポートエージェントに問い合わせ
  2. 一般エージェントは質問を分析し、専門的な内容と判断
  3. A2A を使って適切な専門エージェント(技術、課金、製品など)に転送
  4. 専門エージェントが回答を生成し、一般エージェントに返送
  5. 一般エージェントが顧客に対して一貫した回答を提供

このアプローチのメリットは、顧客側からは単一のインターフェースでありながら、バックエンドでは複数の専門エージェントが連携している点だ。これにより、複雑な問題に対しても一貫した、質の高い回答を提供できる。

エージェント間連携技術の進化

A2A の技術的な進化は、単なる新しいプロトコルの登場にとどまらない。過去の技術や研究との関連性を考えると、A2A はエージェント間連携技術の進化の一環として位置づけられる。

エージェント間連携技術の進化

2000年代初期

初期のマルチエージェントシステム研究

アカデミックな領域での基礎研究

2010年代

マイクロサービスアーキテクチャの台頭

サービス間連携の概念が発展

2022年

大規模言語モデル(LLM)の普及

自律型AIエージェントの技術的基盤確立

2024年
7月

Anthropic社がModel Context Protocol発表

エージェントとツール間の標準的連携を提案

2025年
4月

GoogleがAgent2Agent(A2A)プロトコル発表

エージェント間の相互運用性を実現する標準提案

教育・人材育成への応用

AI 教育事業を運営してきた私の視点からは、A2A の教育・人材育成への応用も非常に興味深い。

多様な教育エージェントが連携することで、パーソナライズされた学習体験を提供できる可能性がある。例えば、

  • 学習計画エージェント:学習者の目標とペースに合わせた計画を作成
  • コンテンツエージェント:トピックやスキルに特化した教材を提供
  • 評価エージェント:学習の進捗を測定し、フィードバックを提供
  • メンタリングエージェント:モチベーション維持と人間的サポートを提供

私がキカガクで直面していた課題の 1 つは、学習者の多様なニーズに応える柔軟な教育モデルの構築だった。マルチエージェントアプローチは、この「一人ひとりに合わせた教育」という理想をより実現可能にする技術として期待できる。

批判的な視点でも分析:A2A の将来性を考える

ここまで A2A の技術的側面とビジネス価値について検討してきたが、批判的に見ることも重要だ。A2A が直面する課題と長期的な展望について分析していこう。

A2A 成功の可能性と促進要因

A2A が広く採用され、真の意味での標準となる可能性を支える要因は何だろうか。

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特に注目すべきは既存の標準技術の上に構築されている点だ。HTTP、Server-Sent Events、JSON-RPC といった広く採用されている技術を基盤としていることで、新たに学習するハードルが低く、既存のスタックにも比較的容易に統合できる。

また、Google という強力な後ろ盾の存在も大きい。彼らは単にプロトコルを提案するだけでなく、ADK や Agent Engine といったツールも同時に提供することで、開発者が A2A を採用しやすい環境を整えている。

懸念点と障壁

一方で、A2A の広範な採用を阻む可能性のある障壁も存在する。

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最も重大な懸念はセキュリティと信頼性だ。自律的なエージェント同士が通信し、データや指示を交換できるようにすることは、重大なセキュリティ上の課題を引き起こす8。異なる組織のエージェント間でどのように堅牢な認証を行うのか?データプライバシーはどのように維持されるのか?悪意のあるエージェントによるプロトコルの悪用をどのように防ぐのか?

また、「過剰設計」という批判もあり得る9。多くのユースケースでは、既存のパターン(REST API やより単純なオーケストレーション手法)で十分対応できるのではないか、という疑問だ。A2A は、今日の多くの組織にとってまだ差し迫った課題ではない問題を解決しようとしているのかもしれない。

将来シナリオ分析

A2A の長期的な将来について、いくつかの可能性が考えられる。

シナリオ 1:デファクトスタンダード

このシナリオでは、A2A が広範に採用され、異なるベンダーやプラットフォーム間でエージェントが相互運用するための主要な方法となる。しかし、競合する大手(Microsoft、AWS、OpenAI、Anthropic)が独自のアプローチを推進する可能性や、A2A のガバナンスモデルの課題を考えると、完全な業界標準となる可能性は現時点の情報ではそれほど高くないと予想する。

シナリオ 2:Google エコシステム標準

より可能性が高いのは、A2A が Google Cloud 内と密接に連携するパートナーのエコシステム内では広範に採用されるが、それ以外では限定的な採用に留まるというシナリオだ。Google Cloud と Vertex AI を使用している顧客にとっては事実上の標準となるが、他のクラウドプラットフォームではあくまでオプションの 1 つとなる。

シナリオ 3:ニッチな特定用途での活用

A2A が特定の業界や非常に複雑なユースケースで使用されるが、一般的な採用には至らないというシナリオも考えられる。特に、部門間や組織間の複雑な連携が必要な金融サービスや医療などの規制の厳しい業界では価値が認められる可能性がある。

シナリオ 4:踏み石/将来標準の影響源

最も興味深いシナリオは、A2A が将来の標準化努力に影響を与えつつも、最終的にはより成熟した、あるいはより広範な支持を得たプロトコルに取って代わられるというものだ。この場合、A2A の概念や設計原則は次世代の標準に引き継がれることになる。

これらのシナリオを考慮すると、中期的に最も可能性が高いのは「シナリオ 2:Google エコシステム標準」だろう。特に Google の AI スタックを既に活用している企業では、A2A の採用が進む可能性が高い。長期的には「シナリオ 4:踏み石」となる可能性も高く、A2A の経験から学んだ教訓が、より包括的な業界標準の形成につながるかもしれない。

セキュリティとガバナンスの根本的課題

A2A が直面する最も本質的な課題は、セキュリティとガバナンスにある。自律的なエージェントが組織の境界を越えて相互作用する能力は、セキュリティとトラストに関する複雑な問題を引き起こす可能性がある8

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プロトコルは通信方法を定義するかもしれないが、堅牢でスケーラブルな信頼フレームワークを確立し、実環境での安全な運用を保証することは、特に機密性の高いエンタープライズデータやプロセスにとって、広範な採用を阻む大きな障壁となる可能性がある。エージェント A がエージェント B の正当性と権限をどのように検証するのか、通信中のデータはどのように保護されるのか、といった基本的な問いに加え、自律性ゆえの不正エージェントによる悪用リスクなど、標準的な API セキュリティ対策だけでは不十分な課題が存在する。

AI 教育と組織変革に携わる立場から見ると、これらの課題は技術だけでなく、組織文化や信頼構築のプロセスにも関わる問題だ。技術的なセキュリティメカニズムと並行して、組織間の信頼関係やガバナンスモデルの構築も必要になるだろう。

もちろんこの問題は今回の A2A に限ったことではなく、AI エージェントや自律型システム全般に共通する課題だ。A2A がこの問題にどのように対処していくのか、また他の競合がどのようなアプローチを取るのかは、今後の技術的進化とともに注目すべきポイントだ。

オープン標準と企業戦略の緊張関係

A2A を「オープン標準」として評価する際、「オープン」の定義と現実についても慎重に考える必要がある。

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ベンダー主導の標準が、実際には自社の「堀(moat)」を築く手段となることは、テクノロジー業界では珍しくない9。Google は確かに A2A の仕様とサンプルコードをオープンソースとして公開しているが、その進化と方向性は Google の戦略的利益に沿って進む可能性が高い。

真にオープンなプロトコルには、特定のベンダーから独立した意思決定機構、透明な開発プロセス、そして多様なステークホルダーの実質的な関与が必要だ。A2A がこれらの条件をどの程度満たしていくのかは、その将来性を左右する重要な要素となるだろう。

組織導入への提言:が、いつ、どのように

A2A の技術的側面と将来性を検討した上で、組織が実際にこの技術を導入・活用するための具体的な提言を行いたい。特に重要なのは、誰がA2A に関心を持つべきか、いつ導入を検討すべきか、そしてどのように実装すべきかという観点だ。

関与すべきステークホルダー

A2A に関心を持ち、理解を深めるべき主要なステークホルダーは以下の通りだ。

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ソフトウェア開発者 & AI エンジニア(優先度:高)

AI エージェント、特にマルチエージェントシステムや外部機能との連携が必要なエージェントを構築する開発者は、A2A を理解し、実装方法を学ぶべきだ3。彼らは、ADK、LangGraph、CrewAI などのフレームワークで A2A クライアント/サーバーを実装する方法を把握する必要がある。

エンタープライズアーキテクト & IT ストラテジスト(優先度:高)

組織のシステム設計や技術戦略の策定を担当する専門家は、A2A が自社の IT ランドスケープ、統合戦略、ベンダー選定にどのような影響を与える可能性があるかを評価すべきだ。特に、複数の AI イニシアチブを並行して進めている企業では、それらの相互連携の枠組みとして A2A を検討する価値がある。

プラットフォームベンダー(優先度:中)

SaaS、PaaS、クラウドプロバイダーなど、エージェントが実行されたり相互作用したりする可能性のあるプラットフォームを提供するベンダーは、相互運用性のために A2A をサポートするかどうかを検討すべきだ。初期パートナーリストの動向は、業界の方向性を示している。

システムインテグレーター & コンサルタント(優先度:中)

企業が複雑なソリューションを導入する際の支援を行うシステムインテグレーターやコンサルタントは、クライアント向けにマルチエージェントソリューションを設計・構築するために A2A に関する専門知識を蓄積すべきだ。

AI 変革推進者 & イノベーターズ(優先度:高)

組織内で AI 活用を推進する役割を担う人々(CDO、CTO、イノベーションリーダーなど)は、A2A がもたらす可能性と課題を理解し、パイロット導入の機会を探るべきだ。

段階的導入アプローチ

A2A の導入を検討する際には、組織の状況や目的に応じた段階的なアプローチが重要だ。

A2A導入の段階的アプローチ

フェーズ1

認識と教育

A2Aの概念を理解し、技術チームと意思決定者に教育。動向監視と情報収集の期間

フェーズ2

実験とPoC

限定された環境で小規模な実験を実施。プロトタイプ開発とフィージビリティ検証

フェーズ3

パイロット導入

特定の部門や業務プロセスでの限定導入。実際のビジネス価値の検証

フェーズ4

拡張と統合

成功事例に基づく横展開。既存システムやプロセスとの統合強化

フェーズ5

エコシステム形成

社内外のエージェント連携による包括的エコシステムの構築。新たなビジネスモデルの創出

導入の優先順位付け

企業が A2A 導入を検討する際には、以下の評価基準に基づいて優先順位を決定すべきだ。

  1. 複雑性とサイロの程度:部門間やシステム間の連携が複雑で断片化している領域ほど、A2A から得られる価値が大きい
  2. 既存の AI エージェント活用度:すでに複数の AI エージェントを活用している組織ほど、早期導入のメリットがある
  3. 技術的成熟度:最新技術の導入経験と技術的負債の少なさは、成功の重要な前提条件となる
  4. 業務の自動化ニーズ:複雑なワークフローやマルチステップのプロセスを自動化したいニーズが強いほど、A2A の価値は高まる
  5. データプライバシーとセキュリティ要件:高いセキュリティ要件がある場合、A2A の導入には慎重なアプローチが必要

導入戦略と実装のベストプラクティス

A2A を導入する際には、以下のベストプラクティスを考慮することを推奨する。

1. 明確なユースケース定義から開始

具体的な問題や課題から始め、A2A がどのように解決に貢献するかを明確にする。「技術のための技術導入」を避け、実際のビジネス価値にフォーカスすることが重要だ。

2. 段階的な小さな成功の積み重ね

大規模な変革ではなく、小さな成功を積み重ねるアプローチを取る。具体的な成果を示すことで、組織内の支持を得やすくなる。

3. セキュリティを設計の中核に

セキュリティとプライバシーを後付けの考慮事項ではなく、設計の中核に据える。特に組織の境界を越えるエージェント連携では、堅牢な認証と権限管理が不可欠だ。

4. チーム間のコラボレーション促進

技術チームとビジネスチームの密接な連携を促進する。A2A の潜在的価値を最大化するには、技術的な実装だけでなく、ビジネスプロセスの再設計も重要だ。

5. エージェントの役割と責任の明確化

各エージェントの役割、責任、能力を明確に定義する。これにより、適切なタスク分担と効率的な連携が可能になる。

6. モニタリングと透明性の確保

エージェント間のやり取りを監視し、その動作を透明化する仕組みを構築する。これにより、問題の早期発見や継続的な改善が可能になる。

教育と人材育成の視点

私の AI 教育事業経験から特に強調したいのは、人材育成の重要性だ。A2A のような先進技術を導入する際には、単に技術を導入するだけでなく、それを効果的に活用できる人材の育成が不可欠だ。

特に以下のスキルセットが重要になると考える。

  1. システム思考:複数のエージェントが連携する複雑なシステムを俯瞰的に理解する能力
  2. プロトコル設計:効果的なエージェント間通信を設計する技術的知識
  3. セキュリティ思考:潜在的なリスクを特定し、適切な対策を講じる能力
  4. プロセス最適化:ビジネスプロセスをエージェント連携に適した形に再設計する能力
  5. 変化管理:新技術導入に伴う組織的・文化的変化を管理する能力

これらのスキルは従来の IT 教育だけでは十分にカバーされないため、組織内での意識的な育成や外部専門家との連携が必要になる。

エージェント協調時代の到来

今回の記事では、Google の Agent2Agent(A2A)プロトコルについて、その技術的側面、ビジネス価値、そして将来性を多角的に分析してきた。A2A は単なる技術仕様ではなく、AI エージェントの協調によって実現する新たな自動化パラダイムの基盤となる可能性を秘めている。

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技術と組織の架け橋としての A2A

A2A の最も興味深い側面は、それが技術的問題だけでなく組織的課題にも対応している点だ。エージェント間の連携を標準化することは、技術的には異なるシステムをつなぐことだが、組織的には異なる機能や部門をつなぐことに相当する。

私が和談で取り組んでいる「対話の再定義による組織変革」というミッションとも深く共鳴する部分だ。組織内のコミュニケーションを改善し、サイロを打破するという課題は、エージェント間の「対話」を標準化するという A2A の目標と本質的に似ている。

複数のエージェントからなる「システムとしての AI」

今後の AI は単一のモデルやエージェントではなく、複数のエージェントが連携する「システムとしての AI」へと進化していくだろう。これは、単一の万能な AI を作るのではなく、専門的な AI の集合体として知的システムを構築するというパラダイムシフトだ。

A2A と MCP は、この新しいパラダイムの重要な基盤となる。A2A がエージェント間の連携を、MCP がエージェントとツールの連携を担うことで、より柔軟で拡張性の高い AI エコシステムが実現する。

未解決の課題と今後の展望

A2A には大きな可能性がある一方で、未解決の課題も多い。特にセキュリティとガバナンスの問題は、広範な採用のための最大の障壁となるだろう。また、プロトコルとしての標準化の行方も注目すべき点だ。

中期的には、Google の AI エコシステム内での採用が進み、特定の複雑なユースケースでの価値が証明されていくだろう。長期的には、A2A の経験から学んだ教訓が、より包括的な業界標準の形成につながる可能性もある。

「協調」こそが次の技術革新の鍵

技術の歴史を振り返ると、真のブレークスルーは多くの場合、個々の技術の進化だけでなく、それらがいかに効果的に連携するかによってもたらされてきた。インターネットのプロトコルスタック、マイクロサービスアーキテクチャ、そして今日のクラウドエコシステムがその例だ。

A2A も同様に、個々の AI エージェントの能力向上だけでなく、それらがいかに効果的に協調するかという課題に対するソリューションとして重要な役割を果たすだろう。その意味で、A2A は単なる技術標準ではなく、AI の協調的未来への重要な一歩だと言える。

AI がビジネスと社会にもたらす真の変革は、おそらく個々のモデルの能力だけでなく、様々な専門性を持つエージェントが連携する「協調インテリジェンス」から生まれるのではないだろうか。A2A はその可能性を広げる一助となる技術だ。

参考文献

Footnotes

  1. "Google Unfurls Raft of AI Agent Technologies at Google Cloud Next '25", Techstrong.ai 2 3 4

  2. "Announcing the Agent2Agent Protocol (A2A)", Googblogs.com

  3. "Build and manage multi-system agents with Vertex AI", Google Cloud Blog 2 3 4

  4. "Announcing the Agent2Agent Protocol (A2A)", Google for Developers Blog 2 3 4

  5. "Agent2Agent: Google announces open protocol so AI agents can talk to each other", SiliconAngle

  6. "Agent Development Kit: Making it easy to build multi-agent applications", Google Developers Blog

  7. "Google Cloud Next 2025: News and updates", Google Blog

  8. "AI Agent Communication: Breakthrough or Security Nightmare?", Deepak Gupta 2

  9. "The Agent2Agent Protocol (A2A)", Hacker News 投稿 2

吉崎 亮介

吉崎 亮介

株式会社和談 代表取締役社長 / 株式会社キカガク創業者

「知の循環を拓き、自律的な価値創造を駆動する」をミッションに、組織コミュニケーションの構造的変革に取り組んでいます。AI技術と社会ネットワーク分析を活用し、組織内の暗黙知を解放して深い対話を生み出すことで、創造的価値が持続的に生まれる組織の実現を目指しています。

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